自宅からの直通通路を使ってその場に着けば、誰もが驚いたような視線を向けてくる。
「秘密通路がありますの。後でご案内しますわ」
 それに、そちらの方がこの子が荷物を運ぶのに便利でしたから……と自分の足下にいるオカピに視線を向けた。
「オカピも来てくれたんだ!」
 その瞬間、キラが嬉しそうな表情を作る。そういえば、彼女は自分と同じくらいオカピが好きでいてくれたのだ、と思い出す。
「えぇ。せっかくのピクニックですもの」
 ですから、付き合って頂きましたの……と付け加えた。
「お茶とフルーツも持ってきましたわ。皆さんでいただきましょう」
 遅れたお詫びです、とそうも告げる。
「しかたがないよ。ラクス、お仕事あったんだよね」
 そちらを優先しなければいけないだろう、と言うキラに周囲の者達も頷いてみせた。
「その間に、あちらこちらを見せて頂きましたから」
「凄いですよね、ここ。あっちにあったステージも素敵だったし」
 あそこで歌われるんですか? とホーク姉妹も口を開く。
「えぇ。その予定で作って頂きましたの。コンサートの時には皆さんを招待させて頂きますわ」
 今日は、ここでお茶をすることで我慢してもらえるか、とそう問いかける。
「それで十分です」
 ここ、景色いいし……とシンが笑った。その隣で、レイがさりげなく誰かの荷物を持ち上げている。
「確かに。うるさい連中に見つからないだけでも十分です」
 こう言ってくれたのは、確かヨウランという名前の少年だっただろうか。物静かで、キラが苦手なマイクロユニットの授業の時には、ヘルプをかける相手だった。
「学校だと、迂闊に近づいただけでもにらまれるもんな」
 こちらはヴィーノだ。彼は確か、シン達と同じ学年だったはず。ヨウランと彼が仲がいいから、友人になったのだろうか……とそう判断をする。
 ついでに彼等が認めている相手だと言うことは安心していい存在なのだろう。
「シンとレイはまだいいけど、俺たちだと男性陣からの視線が痛いって」
 明るい口調でいわれた言葉の意味がわからないのだろうか。キラが小首をかしげていた。
「……何で?」
 いくら考えてもわからなかったのだろう。キラは助けを求めるようにこう口にする。
「お友達でしょう?」
 自分がそう思っているだけではダメなのか。こう言うところがキラの可愛らしいところだ、とラクスは思う。
「キラ……いい加減、自分は可愛いという自覚を持って……」
 ね、とルナマリアが彼女の肩に手を置きながら口にする。
「そうですよ。その自覚をしてもらわないと、次の話ができません!」
 メイリンもまた頷いてみせた。
「いいですか? 比較対象にラクス様やレイ達を持ってきてはダメです! せめて私たちかシンにしてください。ヨウランとヴィーノは問題外だから除外!」
「なんだよ! その問題外っていうのは」
「鏡、あったわよ、あっちに」
 さらりと流すルナマリアの言葉がラクスの笑いを誘う。
「……ラクス様まで……」
 その事実にショックを受けたのか。それとも、場を盛り上げようとしてのことか。ヴィーノがわざとらしい態度でヨウランの肩に顔を伏せて泣き真似を始める。
「ともかく、こっちは無視していいから」
 このままでは話が進まないから、とルナマリアはキラに告げた。
「あのね、キラ。ラクス様もレイも、ついでにキラのお家の人たちも、みんな平均よりもずっと上なの! だから、彼等を基準にしちゃダメ!」
 シンも、一応上のレベルだけど……と付け加えられて、シンが少しだけ不満そうな表情を作った。
「あらあら。シンもきちんと人気者ですわよ。ただ、みな、キラに遠慮をしているだけですわ」
 というよりも、二人の間に割り込めるはずがないと言った方が正しいのかもしれない。キラとシンの場合、二人でいる事が自然と思えるのだ。だからといって、レイが阻害をされているわけではないし、自分たちだってそうだろう。
 キラは誰も拒まないし、シンにしても彼女に危害を加えないとわかれば同様だ。
 ある意味、自分たち問題かもしれない。あの二人がセットでいてくれる方が安心できるのだ。
「というより、邪魔できないんだよな。お前達の場合。本当にお似合いだし」
 ヨウランがラクスと同じようなセリフを口にした。
「……レイもカナードさん達も、まだ独り身だもんな、そういえば……」
 彼等だけではなく、ラウやギルバートも、だ。だが、それは全てキラを守るためだと聞いている。その理由も聞かされているから、何も言えない。
「レイもだけどさ。カナードさんなんて、相手を探すのが一番大変かもしれないな」
 最悪、相手よりもキラを優先しそうだ……とシンは呟く。
「それは、俺も心配していた」
 あっさりとレイも頷いてみせる。
「そうなのか?」
 カナードの名前は聞いていても、どういう人物かを知らないらしいヴィーノがこう問いかけてきた。
「……カナードさんは、キラさんだけじゃなく俺たちにとってもほとんど《母親》代わりのようなものだからさ。その中でも、キラは女の子だから本当にかわいがられているわけ」
 あの性格も、間違いなくカナードが彼女をかわいがっていたからだろう、とシンは口にする。
「はっきり言えば、カナード兄さんに認められないとキラさんの側に近づけないんだよ」
 迂闊に近づこうとして、あっさりとのされた人間がどれだけいるのやら……とレイも口にした。しかも、それで盛り上がっていく二人と反比例するかのようにヴィーノの表情が強ばっていく。
 その隣では、ルナマリア達が必死にキラに納得させようと頑張っている。
 もっとも、キラに納得をさせるのは難しいだろう……と言うことは、彼女たちだってわかっているはずだ。彼女の思いこみは、ものすごく強い。その原因を作ったのがあの男であれば、やはり許せない。そう思うのはいけないことか。
「大丈夫だって。お前達のことはちゃんと俺たちが話しているし……俺たちが信頼しているなら友達としては認めてもいいってカナードさんも言ってくれたから」
 だから、安心して傍にいればいいって……とシンは笑う。
「と言うところで、お茶の支度を手伝って頂けますか? あちらはもう少し時間がかかりそうですもの」
 苦笑とともにそう告げれば、誰もが頷いてみせる。そして、すぐに行動を開始してくれた。