そのころ、レイはヨウランとヴィーノとともに、クライン家所有の庭園のあちらこちらに警備装置を設置していた。その場所は、事前にラクスからデーターを貰ったカナードが割り出したものである以上、穴はないはずだ。
「こっちは終わったぞ!」
 こう言いながらヨウランが歩み寄ってくる。
「すまなかったな」
 面倒をかけて、とレイはそんな彼に苦笑を向けた。
 警備上の穴はない代わりに、設置する数は尋常ではないのだ。三人がかりで朝から作業をしても、今までかかってしまった。その現実に、礼の言葉をいくら言ってもいい足りないような気がしてならない。
「気にするなって。しかし、ラクス様もキラも大変だよな」
 ストーカーに目を付けられているなんて……と彼は付け加える。
「まぁ、二人とも家柄はもちろんものすごく可愛いもんな」
 特に性格が、という彼の言葉に、思わず吹き出しそうになってしまうのは、きっとラクスの本性を知っているからだろう。
 キラはまさしく見た目通りの性格だ。
 そうなるように、周囲がみなが細心の注意を払って環境を整え接してきたのだから当然だろう。あのシンですら、そんな自分たちに協力をしてきたのだし、とも思う。
 それを横から出てきたバカなんかに渡してたまるか。
 逆に、ラクスは見た目とは違って冷酷な一面もある。それは、彼女が政治家として並々ならぬ才能を持っているからだろう。しかし、それはキラに向けられることはない。彼女もまたあのキラの性格を大切に思っているのだ。
 だから、シンのことも許容しているのかもしれないな。そんなことも考える。
「……だからといって、影からこそこそとのぞき見て、あれこれ妄想されるのはいやだろうからな」
 幸いなことに、キラはその事実に気が付いていないから……とレイはそんな気持ちを押し隠してこういった。
「確かに。玉砕覚悟で告白する方が男らしいよな」
 もっとも、その前にキラに逃げられることを覚悟しないといけないけど……とヨウランは笑う。
「あぁ、それはある」
 いつの間に合流していたのだろうか。その気配に気が付かなかったとは、気がゆるんでいるかもしれない……とレイは自分にあきれる。
「終わったのか、ヴィーノ」
「もちろん。確認するって言っていたから呼びに来た」
 だけど、バカだよな、そいつ……とヴィーノはヨウランをクッションにするかのように背後からのしかかりながら口にする。
「どう見たって、あの二人、ラブラブじゃん。入り込む隙なんてないだろう?」
 それでなくても、レイもいるし……第一、女性陣が変な連中をキラに近づけるはずがないし……と彼は続けた。その間にも、ヨウランは彼に文句を言っているが、見事なくらいそれを受け流しているヴィーノは思い切り大物なのだろうか。
「おかげで、俺もシンも、安心して授業を受けていられるがな」
 でなければ、落ち着いてなんていられないだろう……とレイは苦笑を返す。
「はいはい。本当、お前、キラさんのこととなると目の色が変わるよな」
 シンよりすごいんじゃねぇ? と彼は笑う。
「……家では普通だぞ。だから、シンも気にしないだろうが」
 自分がどれだけキラのことを気にかけて、なおかつ彼女がしていることに手を出しても、とレイはしれっと言い返した。
「それだけはうらやましいよ。普通なら、ケンカしそうだしな」
 でなければ、徹底的に嫌って顔も見たくないと言い出すか……とヨウランが笑う。
「お前の所、お姉さんの婚約者と仲が悪いんだっけ?」
「だって、あいつ、俺のことバカにするんだぞ」
 そのくせ、今日、ラクスに会えるかもしれない……と言ったら、いきなりサインを貰って来いだのなんだのと偉そうに命令してくるし……とヴィーノに言い返してくる。
「個人的に会いに行くんだから、そんなことするわけないのに、な」
 でなかったら、自分の分だけ貰って帰るに決まっているだろう、と彼は付け加えた。
「シンも、本当に子供の頃から一緒にいるしな。最初からそうなるもんだ、と思っていたよ、俺は」
 だから、嫌いにならないですむように一緒にあれこれ考えるようにしてきたんだ……とレイは口にする。
「それよりも、キラさん達が着く前にチェックをすませるぞ。でないと、安心して過ごせない」
 言葉とともに彼は立ち上がった。
「あぁ、そうだったな」
「せっかく、個人的に親しくなれる機会をお前とシンがくれたんだ。有効に使わないとな」
 ファン心理としてはちょっと複雑なものはあるけど、とヴィーノが笑う。
「何言っているんだ。俺としては、あの人のスタッフになれればいいかな、という下心があることは否定しないけど……でも、やっぱり、個人的にキラさんやラクス様に信頼してもらえると嬉しいな、とは思うぞ」
 支えるためのポジションはいろいろとあるしさ……とヨウランはようやくヴィーノを振り落として大きく伸びをした。
「でも、ザフトに入るって言うのもいいかもな」
 あそこであれば、最先端の技術に触れることができるから……と彼は付け加える。
「あぁ、それは俺も考えてた。MSの整備、ってしてみたいよな」
 パイロットは無理だろうけど、整備士ならなれると思うんだ……とヴィーノも口にした。それに、レイが思わずため息をついてしまう。
「言っていくが、整備士だってそんなに楽じゃないぞ。家の学校のレベルであれば、最低でもプログラミングの授業でトップ5には入っていないとな」
 それでも、アカデミーに入学できるだけであって、それ以降はもっと勉強をしなければいけないのだぞ、とも。
「キラさんだって、無条件じゃ無理なんだしな」
 さらにこう付け加えれば二人は表情を強ばらせる。
「まぁ、あくまでも努力次第だ」
 ともかく、今は今しなければならないことをしよう、とレイは微笑みを彼等に向けた。
「そうだよな。卒業までにもう少し時間があるし……ラクス様やキラさんみたいに突出した才能がないから、逆に悩めるんだよな」
 それがいいのかどうかわからないけど……と前向きに考える彼は、きっとキラだけではなく自分たちにもいい影響を与えてくれるだろうな。そんなことも考えてしまう。
「好きなだけ悩めばいいって」
 ヨウランもまた、そんな彼の肩を叩く。
「と言うことで、まずはチェックだな。きちんとできているか」
 これからも、そういうことが重要になるだろうしさ……と彼は続ける。それに、レイも頷き返してみせた。