しかし、自分はこれからどうなるのだろうか。
 ザフトの船に収容された後、シンはキラとともに小さな部屋で休むように言われた。しかし、どうしても眠れるはずがない。あの光景が脳裏から離れないのだ。
「眠れないの?」
 そんな彼に、キラがそうっと問いかけてくる。
「キラ……」
 ひょっとして、自分のせいで起こしてしまったのか。そう思いながら、視線を向ける。
「一緒に、寝よ? 誰かと一緒だと、きっと寝られるよ?」
 一緒なら、悪い夢も見ないよ……と口にしながら、キラは自分の毛布を持ち上げてくれた。
「……キラ……」
 しかし、シンはそこに体を滑り込ませることをためらってしまう。
「寝よう、ね?」
 しかし、キラはこう言って首をかしげてみせた。
「寝て起きれば、きっと、今日のことは昨日になるよ? その次に寝れば、昨日はおとといになるし……そうやって、ずっと続けていけば、きっと、嫌なことはどこかに隠れて、嬉しかったことだけ残るんだ」
 その方が、きっと、みんなも安心してくれるよ……とキラは付け加える。その中に、今は天国に行ってしまった者達のことも含まれているのではないか。シンはそう思う。
「……そうだな」
 確かに、自分がこんなでは、彼等も安心できないのではないか。
 でも、とも思う。
「死んだ後、人間の意識は、どこに行っちゃうんだろうな」
 ふっとこんな呟きを漏らしながら、キラの隣に潜り込む。
「僕もはっきりとは知らないけど……ここ、じゃないかな?」
 そのまま横になったとき、キラがシンの胸を指さした。
「ここ?」
「そう。大切な人の心の中だよ。で、不安になったときとか、はげましてくれるんじゃないかな、って思う」
 でも、自分が考えているだけから、間違っているかもしれない……とキラははにかんだように微笑んだ。
「そうかも、しれないな」
 そうだったら、自分も安心できるよな。そう思って、シンは頷く。
「だから、大丈夫だよ」
 キラがそっとシンの頭を抱きしめてくれる。細い腕から、キラのぬくもりが伝わってきた。
 それがシンの心の中の何かを打ち壊したのか。
 ずっと遠くに行ってしまったと思っていた眠気が襲ってくる。
「おやすみ、シン君」
 優しい声が耳に届く。それは家族のものとは違っていたが、それでも耳に心地よい。
「おやすみ、キラ」
 自分のそれも、キラにそう感じてもらえるといいな。
 そんなことを考えながら、シンもまた言葉を返す。

 数分も経たないうちに、部屋の中に小さな寝息が広がった。

「……おそらく、そうだろうね」
 キラとカナードが助かったのは、あちらがそうなるように配慮したからではないか。ラウがそういってくる。
「……あの年齢であれば、教育次第で、どうにかなると?」
「あいつらにしても、あの子の血筋は魅力的だろう」
 だからといって、渡す気はないが……とラウは冷酷な笑みを浮かべた。
「第一、あの子が大好きだったご両親を殺すよう指示した相手を許すと思っているのかね」
 あの外見には似合わないくらい、あの子は頑固だったように記憶しているが……と彼はカナードを見つめてくる。
「今も、かなり頑固ですよ」
 もっとも、キラの頑固さは可愛らしいといえるものだが……と付け加えた。
「まぁ、ちゃんと納得をさせれば妥協してくれるようになりましたが」
「そうか」
 やはり、あの二人がきちんと育ててくれたのだな……とラウは頷く。
「君も、最初にあった頃のようなすさんだ瞳はしなくなったしね」
 さりげなく付け加えられた言葉に、カナードは苦笑を浮かべた。
「お互い様ではありませんか?」
 自分以上にすさんだ瞳をしていたはずなのだ、彼は。いや、今もそうなのだろうか、とふと思う。
 あの子供を守る役目を与えられた自分と違って、彼はもっと別の役目を選んだ。それが決して心休まることはないものだと知っている。
「何。私も、取りあえず一人ではなかったからね」
 キラほどではないが、あの子もある意味愛おしい存在だと言っていいだろう……と彼は笑う。
「見た目だけは、まだ、女の子のようだしね」
 性格はあまり可愛くないな、と付け加える彼は本当に残念そうだ。
「やはり、環境が悪かったのかもしれないね」
「……と言うより、あそこがよすぎたのかもしれません」
 完璧、と言ってよかったのではないか。
 やさしく慈しんでくれながらも、悪いことは悪いと教えてくれた人たち。。
 だからといって、頭から押さえつけていたわけではない。
 どうして自分がそのような行動を取ったかわからないときも、一緒にその理由を考えてくれた。
 そんな人たちの元にいたからこそ、キラだけではなく自分も、今のような存在になれたのだと思う。
「そうだな」
 あれ以上の環境は望めないだろう……とラウも頷く。
「しかし、そうなるとキラが可愛そうかもしれないね」
 これからは、あのこと同じ環境で我慢してもらわなければいけないのだから、と彼は苦笑を浮かべた。
「わかっていますよ、キラも」
 そういいながら、キラ達がいる部屋の前で二人は足を止める。そして、そのままロックを解除すると中に足を踏み入れた。
「おやおや」
「……まぁ、安眠してくれるならいいですけどね」
 寄り添いながら穏やかな表情で眠っている二人に彼等は笑みを浮かべる。
「この眠りを守るのが、私たちの義務だろうな」
 それに、カナードは静かに頷いてみせた。