久々に顔をそろえる理由がこれだと考えれば本当に頭が痛い。
 レイはレイで、ラクスからの伝言を持ち帰っているし、ラウとギルバートの身の上に降りかかってきた騒動は、既に周知の事実だと言っていい。しかも、二人同時に、と言う所に作為を感じないものはいないだろう。
「……ラクス様がなんだって?」
 ともかく、それを確認する方が先決ではないか。そう考えてラウは問いかける。
「……家の学校の女子をナンパして、キラさんのことを聞き回っている男がいるそうです」
 特徴を照合していけば、アスランのそれと非常に重なる……とレイはさらに言葉を重ねた。
「本人自ら動くかどうか、と言う点が疑問ですが……それでも、十分可能性があるだろうとラクス様が」
 調べ上げてくれたのはルナマリアとメイリンだ、とも彼は付け加える。
「キラには本当にいい友達ができたね」
 彼女のことを第一に考えてくれるだけではなく、その行動を認めてくれて応援してくれる友達が、とラウは微笑む。
「えぇ。みな、いい人達です」
 キラだけではなく、自分たちのことも信頼してくれるし……とレイは微笑みを返してきた。
「ついでに、俺たちの友人にも情報を集めて貰っています。変な連中に動かれるとやばそうだと思いましたので」
 自分たちではあちらに気付かれるかもしれないが、彼等であれば大丈夫だろう、とも彼は付け加える。
「大丈夫なのかね?」
 手助けをしてくれる友人達がいてくれるのはいいことだが、とギルバートが口を開く。それはもっともな意見だろう、とラウも思う。
「その点は心配いらないと。一人はキラさんやラクス様と同じクラスですから余計に」
 その代わりに、後でいいから、キラ達に紹介してくれと言われていますが……と口元に浮かべていた笑みをすり替える。
「俺もシンも、彼等ならばキラさんに引きあわせても大丈夫だとは思っています」
 その表情のまま彼はこうも言い切った。
「なるほどね。確かに、校内で味方が増えるのは嬉しいね」
 流石に女性だけでは、いざというときに心許ないから……とラウは口にする。
「しかも、アスランと思われる存在がそのような行動に出ているのであれば、当然だろう」
 というよりも、そんなことをしていたのか……とため息をつく。
「ともかく、カナードと連絡を取った方がいいね」
 そして、キラを含めた三人があちらにいるうちに、何とかこちらの体制を整えておかなければいけないだろう……とラウは結論を出す。
「しかし、問題なのは、そのために使える時間が限られている、と言うことか」
 仕事に支障が出ている状況では、そちらを優先しなければいけないだろう。そうでなければ、今の立場を維持できないのだ。
「あれだけセキュリティがしっかりしているにもかかわらず、犯人の姿がまったく記録に残っていない。そう考えれば、故意に消されたと見るべきだろうね」
 でなければ、記録をそこの部分だけ入れ替えたか……とギルバートも頷いてみせる。
「あるいは、この状況ができたからばれても構わないと思ったのか」
「いや。それを言うならば、気付かれたからこそこの状況を作ったという可能性もあるのではないかね?」
 自分たち二人が動けなくなれば、その間にどうにでもできると思っているのだろう……とギルバートが言ってきた。
「だとするならば、ますます我々の仕事を軽んじている、と言うわけだね」
 自分たちの仕事が重要ではないと思っているからこそ、あんな事ができるのか。こう言ってラウは顔をしかめる。
「そんな人間は、キラの側には必要ない……と、理解させなければいけないだろうね」
 一番いいのは、キラ自身にそういわせることかもしれない。だが、そのせいであの子の心の中の傷が別の意味で広がらないか、それが心配なのだ。
 少なくとも、月にいた頃の思い出は、幸せだった頃のそれとつながっているはずなのだし。もっとも、アスラン以外のコーディネイターのクラスメートとのそれは最悪だったらしいが。それもこれも、アスランの仕業だ、と彼女が気付いているかどうかもわからない。
 しかし、いつまでもこのままにしておくわけにはいかないだろう。
「それも、できるだけ早く、だな」
 でなければ、いつ自分が身動き取れなくなる可かわからない。ラウはため息とともに付け加える。
「それほど、まずい状況なのかね?」
 こちらでもそれなりに情報は掴んでいるつもりだったが……とギルバートが問いかけてきた。
「残念だがね。どうやら、モルゲンレーテにも既に地球軍――いや、ブルーコスモスと言うべきかな――のものが多数食い込んでいるようだよ」
 今でも、表向きは『中立』を謳っているが、いつ、あちらと同盟を結ぶかわからない状況だ……とため息とともに口にする。
「ウズミ様がいらっしゃれば、話は別なのだろうがね」
 未だに行方がわからない。アスハの当主代行をしているホムラですら、未だに手がかりすら見いだせないと言っていた。サハクの双子にいたっては、既に政治の中枢から遠ざけられて等しい、とも。
 だからといって、セイランが指示されているわけではない。
 オーブの代表首長は、あくまでもウズミ・ナラ・アスハだ、という認識がオーブ国民にはあるのだ。
「……それに、そろそろオノゴロの話も広まりつつある。それとともに、誰が犯人かと言うこともね」
 あくまでも噂でしかない。
 文書に書かれているわけでも何でもないから、セイランとしても迂闊に処罰できないらしい。
 それでも、ネット等で書き込んだ瞬間、削除命令が出るという話だ。それがまた、人々の噂をかき立てている結果になっていると本人達が気付いていないあたり笑える……と知人が連絡をしていたよ、とラウは口にする。
「……それは、あの人ですか?」
 この言葉に、レイが問いかけてきた。
「そうだとも言えるし、違うとも言える。ヤマトのご両親は……本当にいい方だったからね」
 そして、有能だった……ともラウは付け加える。
「確かに。ヒビキ夫妻とも負けないくらい、有能な方々だったよ。ただ、彼等の方はあまり騒がれることを好んでいなかったせいで、知る人ぞ知る、という存在ではあったがね」
 それでも、自分やレイのために未来をくれたのはカリダだ。そして、自立のための知識を与えてくれたのがハルマ。
 だから、彼等に返せなかった分の恩はキラに返してやりたい。
 ラウは心の中でそう付け加える。
「ともかく、こちらの味方も増やしていかなければいけない時期になった……と言うことだな」
 キラのために、とラウは口にした。それに、二人とも頷く。
「今のままでいて欲しいとそう思うのはワガママなんでしょうね」
 それでも、とレイが苦笑を浮かべながらこういった。
「君の世界も広がってきているように、キラのそれも広がっていると言うだけだよ」
 それでもキラが自分たちを嫌いになるはずがない。そして、シンが自分たちの中を邪魔することも、だ。
「私たちの関係は、何も変わらない。それだけで十分だろう?」
 そう問いかければ、レイは静かに頷いてみせた。