しかし、アスランの行動はラクスの常識を越えた方向に進んでいった。

 キラとシンの婚約披露のパーティが終わってしばらくしてのことだ。困ったような表情をしてルナマリアが近づいてきた。
「どうかなさいましたの?」
 キラが側にいないのに、彼女がこんな風に近づいてきたことはない。それなのにどうしたのだろうか。そう思いながら問いかける。
「本当は、ラクス様にお話しすべき事じゃないのかもしれませんが……」
 でも、キラのことが心配だし、確認してもらえるのはラクスだけだから……と彼女は続けた。
「構いませんわ。お話くださいな」
 自分たちは友達だろう? とルナマリアに微笑みを向ける。キラと違って《親友》にはなれないかもしれない。だが、それでも自分にとって大切な友人であり、キラを守る仲間の一人なのだ。
 だから、遠慮はしなくていい。言外にそう告げれば、彼女は的確に受け止めてくれたらしい。
「わかりました。なら、遠慮なく」
 ほっとしたような表情でルナマリアは頷いてみせる。
「まずはお座りくださいな」
 その方がゆっくりと話ができるだろう、とラクスは彼女を促す。
 ルナマリアの方も長くなるかもしれないと思ったのだろう。素直にその言葉に従った。
「……多分、キラにも関わることだと思うんです……と言うよりも、そうとしか考えられないんですけど」
 こう前を気をすると同時にルナマリアは言葉を口にし始める。
「何か、最近、妙なナンパがはやっているらしいんです。ナンパって言っていいのかどうかはかなり微妙なんですけど」
 それでも声をかけられて、お茶をしているのだからナンパなのではないだろうか。そう彼女は首をかしげながら付け加える。
「ここの傍にいる他の学校の知り合いにも確認しているんですが、家の学校だけなんですよね、それ」
 でなければ、どこかの物好きか変態の仕業だと言い切っていいのかもしれないけれど、という言葉には少し賛同しかねる。そろそろ、結婚相手を探さなければいけない誰かという可能性もあるのだ。
 自分やアスランだけではなく、キラとシンの話もあったから、一部で焦りが出ているらしい……と言う噂も出ている。
 だが、どうしてここだけなのか。
 一番考えられる可能性は、自分やキラがいると言うことだろう。
 できれば、どちらかに近しい存在を……と狙っているのかもしれない。しかし、それで自分たちと知己になれるのかどうかと言えば、話は別ではないか。
 それがわからないのであれば愚かだとしか言いようがない。
「ものすごく顔のいい人なんですって。レイやシンとはまた違った意味で」
 家の学校、その二人だけではなくラクスやキラもいるから、目だけは肥えているんですよね……と苦笑混じりにルナマリアは付け加えた。
「そういう問題でしょうか?」
「ものすごく重要な問題です!」
 おかげで、普通レベルの相手じゃ満足できない……と言う連中もいるんですよ、と彼女は笑う。
「まぁ、それは脇に置いておいて……問題なのは、ナンパされたメンバーが口にするには、必ず一つの質問をされるんだそうです」
 その前の話の流れによって言葉は違うが……とルナマリアは顔をしかめる。
「キラについて、あれこれ聞きだそうとしてくるんだとか」
 特に一番聞きたがっているのが、彼女が月にいたことがあるかどうか、だとか……という言葉に、ラクスもまた顔をしかめた。
「キラが、月にいたかどうか?」
 その事実を知りたがっている存在がいるとすれば、即座に思い浮かぶのは一人の人物だ。
「そうです」
 でも、と彼女は続ける。
「その事実を知っているのはラクス様か私たちぐらいですから……今のところはばれていないと思いますが」
 それでもものすごく気にかかる……と言うルナマリアの言葉にラクスも同意だ。
 キラが自分から話すわけはない。
 しかし、誰かが小耳に挟んでないとは言い切れないのだ。
「名前も、それぞれ違う名前を口にしているそうなんですけど、どう考えても同一人物らしいんですよ」
 特徴が一致しすぎる……と言うことは、それについて確認してきたと言うことだろう。
 同時に、彼女の行動力には頭が下がる。
「どのような方なのですか?」
 嫌な予感を覚えつつもこう問いかけた。
「藍色というのか、紺色というのか……そんなくらい青系の髪の毛に緑色の瞳、だそうです。あぁ、中にはザラ博士によく似ているような気がすると言っている人もいましたわ」
 いずれ、植物関係の研究者になりたいと言っていた人間の言葉だから、かなり信憑性が強いと思う、とメイリンが言っていたそうだ。
「……アスラン・ザラ、ですわね」
 それならば、とラクスは声を潜めてはき出す。
「やはり、ですか?」
 先日のことがあったから、気になって調べてみたのだけど……とルナマリアは眉を寄せる。やはり、彼女にだけは告げておいてよかったかもしれない、とラクスは心の中で呟いた。
「だとするならば、キラが休んでいることは幸いかもしれないですわね」
 彼女は今、カナードやシンとともに出かけている。レイであれば一人でも対処ができるから、何も心配はいらないだろう。
「お仕事、でしたっけ? ラクス様もそうですけど、キラも重要な仕事を任されるくらい、実力が認められてきたんですね」
 そう考えると凄い、とルナマリアは素直に感嘆の言葉を口にした。その言葉の中には嫉妬心などはまったく感じられない。それは彼女の長所だろう。
「そうですわね。でも、ルナマリアさんやメイリンさんも凄いと思いますわよ、私は」
 他人のためにそれだけ動ける方はなかなかいないから……とラクスは微笑む。
「シンもそうですが、ルナマリアさんの才能も、これからさらにのびていくものです。メイリンさんの情報処理能力は、キラも十分に認めておりますわ」
 だから、焦る必要はないのではないか。
「何よりも、私にとってもキラにとっても、お二人は大切な友人です。傍にいてくださるだけで安心できる方々というのは得難いものですわ」
 それは一番重要な資質だと思う、とラクスは付け加える。
「ラクス様にそういって頂けると自分に自信が出てきます」
「えぇ。もっと自信を持ってください」
 そうしてくれれば、いろいろな意味でもっともっとのびるだろう、と思う。
 しかし、アスランがそのようなことをしていたとは。あちらに注意をするとともに自分も何か取れること手段を探しておかなければいけないだろう。
 ラクスはそう考えていた。