「……キラの誕生日のプレゼントのはずが、お二人の婚約のお祝いになってしまいましたわね」
 くすくすと笑いながら、ラクスがこう言ってくる。
「何か……まだ、全然実感がわかないの」
 というよりも、どうしてこうなったのかがわからない……とキラは付け加えた。それでも、いやじゃないことだけは事実だから、素直に受け入れたけど、とも付け加える。
「それはしかたがありませんわね。でも、見知らぬ誰かを押しつけられるよりもよかったではありませんか」
 シンであれば、ずっと一緒にいてキラも安心できるだろう……とラクスは微笑む。
「ラクスも、みんなと同じ事を言うんだね」
 キラはこう言って首をかしげる。
「あらあら、そうなのですか?」
 そうすれば、どこか楽しげな口調で彼女は言葉を返してきた。
「そんなに、僕が頼りないのかな?」
 だとするなら、ショックだ……とキラは素直に口にする。だが、それを耳にした瞬間、ラクスがころころと笑いを漏らした。
「いいえ、きっと違いますわ。みなさまがおっしゃりたいのは、キラが安心できるのではなく、自分たちが安心できると言うことですわよ」
 キラと同じように、シンに関しても一緒に見てきたのだ。だから、自分たちが安心できると思っているのではないか。
「何よりも、気に入らないところがあれば、即座に教育し直せる……と考えていらっしゃるかもしれませんわ」
「……その可能性はあるかも……」
 特にカナードが、とキラは呟く。
 だとするならば、シンにとって今回のことは不幸の始まりではないか。そんなことすら考えてしまう。
 それとも、いままでで十分教育され尽くしてきたのだろうか。だからこそ、みんなが許可をくれたのかもしれない。そんなことまで考えてしまう。
「あまり難しく考えられない方がいいですわよ、キラ。必要なのは、幸せになることだけです」
 みなに祝福される以上、それは義務でもあるのだ……とラクスは言い切る。
「ラクス……」
「でも、シンが相手ならば心配いりませんわ。絶対に幸せにしてくれます」
 もし、キラを泣かせるようなことがあったら、自分がただでは起きませんから……と彼女は視線を移動させた。それにつられるようにキラもまた彼女が見つめる方向へと顔を向ける。
「……何か、カナードさん達よりもあんたの方が恐いような気がする」
 そうすれば、シンが入り口の所にいるのが見えた。しかも、こんなセリフを呟いている。
「あら。私はキラが幸せならばよいのですわよ。幸せの涙でしたら、何も言いません」
 ただ、悲しませることだけは許さない……とラクスは言い返す。
「当たり前だろう。誰が、キラを悲しませるかよ」
 負けじとシンが言い切った。
「シン……」
「あの時、俺に手を差し出してくれたがキラじゃん。あの時から、一目ぼれなんだぞ、俺は」
 自慢じゃないけど、と言いながらも、シンは胸を張る。
 その言葉にどう反応をすればいいのか、キラにはわからない。
「……シン」
 それでも何か言わなければいけないだろう。そう思って、彼の名を口にする。
「……第一、これで納得てくれないと、俺は殴られそんになると思う」
 しっかりと、レイに殴られたんだよな……とシンが笑う。しかし、それは笑うところなのだろうか、とキラは思うのだ。
「まぁ、キラを最終的に独り占めできる権利と言うことで、妥協するけどさ」
 レイの気持ちもわかるから……とシンの方はあくまでも微笑みとともに言葉を口にしている。彼等がそれでいいのであれば、自分には何も言う権利はないのだが……とキラは思う。しかし、何か違うような気がするのは錯覚だろうか。
「って、忘れるところだった。ラクス様をレイが呼んでる。打ち合わせをしたいんだってさ」
 だが、悩んでいるのは本当にキラだけらしい。シンはあくまでもいつもの口調でこう言ってきた。
「あらあら。あの方も心配性ですわね」
 気持ちはわかりますが……とラクスは微笑みながら立ち上がる。
「それでは、キラ。また後で」
 こう言い残すと、彼女は流れるような足取りで部屋を出て行く。いつ見ても綺麗なその仕草をまねてみたいと思うのだが、どうしてもうまくいかない。そのことが、少し悔しい。
「キラ」
 入れ替わるようにシンが近くに歩み寄ってきた。
「ルナマリアさんとメイリンが来ている。どうする? こっちに来てもらうか?」
 ホールの方は、準備が終わってないから、まだ立ち入り禁止だってカナードさん達が言っていたし……と彼はキラの顔を見つめてくる。
「ルナ達も、その方がいいよね」
 こちらの方が落ち着いてあれこれできるだろうから……と頷いてみせた。
「……飲み物ぐらいは用意してもらえるのかな?」
 ついでというようにこう付け加える。
「大丈夫じゃないかな?」
 まぁ、聞いてみるよ……とシンは笑う。そして、彼は腰を伸ばす。
「シン?」
「呼んでくる。でも、キラはここにいろよ」
 でないと、カナードさんに怒られるぞ……とシンは笑いながら口にした。キラを驚かせたくて、一生懸命飾り付けているんだから、とも。
「……それって、別の意味で恐い」
 キラはこう呟く。
「キラは楽しめばいいんだって。大丈夫。ギルバートさんもラウさんも見張ってるから、凄いことにはならないと思うぞ」
 いや、あの二人も暴走してくれればどうなるかわからない、とキラは思う。それでも、シンが一生懸命盛り上げようとしてくれるのがわかるから、いいか、と考え直す。
「わかった。二人を呼んできてくれる?」
 でも、できるだけ早く戻ってきてね……とキラは付け加えた。
「もちろんだよ」
 すぐ戻ってくるから、とシンは笑う。そして、そのまま部屋を出て行った。