だが、彼等の努力も無駄だった……と言うべきなのか。
 それとも、そうなる運命だったのかもしれない。
「アスラン・ザラ?」
 ルナマリアの口から聞き覚えがある名前を聞いて、キラは小首をかしげた。
「そう。国防委員長のパトリック・ザラ様の息子。ラクス様の婚約者だって」
 立場的にはお似合いなんだけど、ビジュアル的にはどうなのかしら……とルナマリアは付け加える。
「国防委員長のパトリック様って……ちょっと恐いお顔の?」
 確か、ラウと一緒にニュースに出ていたはずだ。そんなことを考えながら、キラは確認のために問いかけた。
「そうよ。でも、あの方にそっくりなら、ラクス様の隣には立って欲しくないわね」
 遺伝子的にはお似合いでも、私的に許せないの! とルナマリアは力説をする。
「何か、ずれてない?」
 ルナ、とキラは反対側に首をかしげながら口にした。
「だって、ラクス様はともかく、その婚約者なんて私には関係ない人間じゃない。どうせ、テレビで見ればいい方だわ」
 だから、相手の容姿にあれこれ文句を付けるぐらいいいの! と彼女は言い切る。
「どうせ、私たちはお気楽な一般人だもん……って、キラは違うのかな?」
 お兄さんがあのラウ・ル・クルーゼだし、保護者がギルバート・デュランダルだから……とルナマリアは真顔で口にした。
「……ラウ兄さんもギルさんも、普通の人だよ?」
 第一、彼等はともかく自分は普通の人間だ……とキラは言い切る。
「まぁ、そうなんだけどね」
 それでもねぇ……とルナマリアはさらに言葉を重ねてきた。
「他の人から見ればキラも十分お嬢様よ。デュランダル様のお屋敷に住んでいるし、王子様――というにはちょっと何ありなのが一人いるけど――が二人もついているじゃない」
 自分はまだあったことはないけど、もう一人、お兄様もいるんでしょ? と彼女は付け加えた。
「そういえば……ルナ達は家に来てもらったことがなかったっけ」
 いつも一緒にいるような気がしていたから気がつかなかった……とキラは口にする。
「あぁ、気にしなくていいのよ。ただ、ちょっと興味があるだけだから」
 ね、とルナマリアは微笑む。
「それなら……ラクスとレイと、あとギルさん達に許可を貰ってからになるけど、ラクスが歌ってくれる日に来る?」
 多分、ラクスは『ダメ』とは言わないと思うけど……とキラは付け加えた。
「でも、キラのために歌ってくださるんでしょ? ラクス様」
 それなのに御邪魔しちゃ悪いわ、と口にするわりには、彼女の表情は興味津々と言ったようなものだ。
「でも、ルナは僕の友達だし……メイリンちゃんはシンとレイのクラスメートだから、かまわないと思うんだけど」
 でも、やっぱり聞いてみるね……とキラは口にする。
「ダメだったら、ごめんなさい」
 さらにこう付け加えたときだ。
「やっぱり、キラって凄く可愛い!」
 言葉とともにルナマリアがキラの頭を抱きしめてくる。
「ルナ!」
 どうしてこういう事になるのか、とキラは思わず目を丸くしてしまった。
「だって、キラが可愛いんだもん」
 私が男だったら、絶対にカレしに立候補するのに! とまで彼女は口にする。
「あらあら。それでしたらその前に私が立候補させて頂きますわ」
 だから、どうしていつもこんなタイミングで現れるのだろうか。そう思いたくなるラクスの登場に、キラは別の意味で首をかしげたくなる。
「それは困りますわ。ラクス様のライバルなんて……」
 シンとレイだけでも厄介なのに……とルナマリアは真顔で口にした。
「まぁ、全ての選択権はキラにあるのですけどね」
 誰を選ぶかの……と微笑みながら、ラクスはさりげなくルナマリアの腕の中からキラの体を救い出してくれる。
「それと、ルナマリアさんとメイリンさんの件でしたら、私はかまいませんわ。お二人も大切なお友達ですもの」
 キラさえよければ、一緒に聞いて貰ってかまわない……と平然と口にされて、余計にキラは驚く。
「ラクス……どこから聞いてたの?」
 というよりも、どこから見ていたのか……とキラは言外に問いかけた。
「キラがルナマリアさんをお家にお招きしたことがない、というあたりからでしょうか」
 こう言って、ラクスは微笑む。
「それじゃ、ほとんどじゃない」
 キラがこう呟けば、ラクスは楽しげな笑いを漏らした。
「いいではありませんか。ねぇ、ルナマリアさん」
「そうですね」
 全部、キラが可愛いからいけないのよ! とルナマリアはまた力説をする。
「だから、どうしてそういう話になるの?」
 自分が可愛いからと言って、彼女たちにどうしてこんな扱いをされなければいけないのか。今は側にいない母以外は男ばかりの中で育ってきたキラにはわからない。
「だから、キラが可愛いから!」
 こうなったら、カナードにでも聞いてみるしかないのだろうか。
 ルナマリアのこともあるし……と本気で考え込んでしまうキラだった。
 しかし、キラ本人は気付いていないが、このことで、完全に彼女の脳裏から《アスラン・ザラ》の名前は消えている。ラクスがそれを狙っていたなどとはまったく気がついていないキラだった。