レイの言葉を聞いて、ギルバートは思い切り眉間にしわを寄せた。 「……その可能性を考えておくべきだったね」 そして、こう呟く。 「しかし、確率的にはかなり低かったのではないですか?」 アスランがラクスの対の遺伝子を持っていることに関しては……とカナードは問いかける。 「確かに。だが、そう決まってしまった以上逆らうわけにはいかないだろうからね」 特に彼等の立場であれば……とギルバートは付け加えた。 「アスラン・ザラに関してはともかく、ラクス様の才能は既に評価が確立している。あの方の才能が母君から受け継いでいるものだ、と言うこともね」 そうである以上、彼女は自分の才能を次世代に伝えなければならないのだ……とも彼は口にする。 「もっとも、私個人としては、あの方はシーゲル様の才能もきちんと受け継いでおいでだと思うのだがね」 むしろ、そちらの方が強いのではないか。彼はそう言って笑う。 「ともかく、ラクス様の疑問だね」 誰か心当たりはあるかい? とギルバートはカナードに話題を振ってくる。 「……確実、というのであればレノア様だろうな」 一瞬考えた後、カナードはこう口にした。 「レノア様? パトリック様の奥方、のか?」 それに言葉を返してきたのはギルバートだ。レイの方は意味がわからないというように目を丸くしている。 「えぇ。アスランの異常さを一番理解してくれていたのがあの方ですので」 それに、キラが女だと言うことも知っている……とカナードは付け加えた。 「もう一つの秘密に関しては……あるいは、カリダおばさまが伝えているかもしれません」 もし、いざというときには彼女を頼るように。カリダがそういったことを考えれば、その可能性は強いだろうな……とそう思う。 「そうか……では、そちらには私から連絡を入れておいた方がいいかな?」 それとも、ラクスが自分で動かれるのだろうか。どちらにしても、彼女の判断を待ってからの方がいいかもしれない、とギルバートは口にする。 「そうですね。連絡の方はレイに頼んでかまわないのか?」 視線を向ければ、彼は静かに頷いてみせた。 「キラさんに気取られないための口実はありますから」 もっとも、それを現実にするためにこれからが少し大変かもしれないが、と彼は微かに苦笑を浮かべた。 「あぁ。ラクス様の伴奏をするのだったね」 非公式とはいえ、確かに手を抜いては失礼に当たるね……とギルバートは笑みを彼に浮かべる。 「しかし、それはそれでいいことだろうね。君にとっても」 「はい。いい経験になると思います」 何よりも、キラが楽しみにしていてくれるから……とレイは付け加えた。 「……できれば、俺が……とも思わなくはないのですが……ですが、俺としては今のポジションも気に入っているんです」 さりげなく付け加えられた言葉の意味がわかるのは、この場にいるものの他にはラウだけだろう。だが、それでいい。少なくとも、キラとシンには知らせたくないのだ。 「恋人や婚約者であれば、何かのきっかけで別れることになるかわかりませんが、家族は一生家族ですから」 遠く離れていても、間違いなくそう思っていてくれるだろう。オーブとプラントに別れていたときですらそうだったのだから、とレイは微笑む。 「そうだね。確かに、その通りだ」 「問題なのは、年下のお前に、キラが甘えまくっていることだけだろうな」 本当に、とカナードはため息をつく。 「それをされている本人が喜んでいるのだから、何も言えないのではないかね?」 だが、この言葉であっさりと納得してしまう。 「ともかく、アスランとキラの再会は、できるだけ引き延ばしたいところだな」 キラが自分に自信を持てるようになれた頃が一番いいのだろう。だが、それが無理ならば、アスランの嫌がらせにも周囲が負けないくらい、絆を強めてからだと嬉しいのだが……とカナードはため息をつく。 「大丈夫ですよ。ラクス様がついていますから」 他力本願なのは気に入らないけれど……とレイは口にする。 「そうだな。彼女であれば、アスランにも負けないだろう」 だから、キラだけではなく他の者達も守ってはくれると思うが……とギルバートは何かを考え込むかのような表情を作った。 「いっそ、もう少し、キラの交友関係を広げさせるか……それとも、シンの方がいいかな?」 アスランには負けないだけの人材をこちらも集めておきたいものだね、と彼はさらに言葉を重ねる。 「そうしてください。俺は……もう二度と、あのころのようなキラの姿を見たくない」 思い出しただけでも忌々しい、とカナードははき出す。 「わかっているよ、カナード。だから、安心しなさい」 一番いいのは、キラがアスランの知っている《キラ》と別人だと言い張ることなのだろうが、それは不可能だろう。それはカナードだけではなくギルバートやラウ達も考えていることではないだろうか。 「まぁ、そのフォローはレイ達に任せるが……一番いいのは会わせないことなんだろうな」 さて、どこまで隠しておけるか。 それが一番の難問かもしれない。カナードは心の中でそう呟いていた。 |