学校に行けば、何やらあちらこちらが騒がしい。
「……どうか、したのかな?」
 しかも、時々自分に視線が向けられている。その理由がわからずにキラはこう呟いてしまった。
「キラに直接、関係はありませんわ」
 そうすれば、ラクスが柔らかな口調とともに隣に腰を下ろしてくる。
「ラクス?」
「私に婚約話が持ち上がっているだけですの」
 それは、最初から覚悟していたことだから……とラクスは微笑みながら付け加えた。
「婚約?」
「そうですわ、キラ。オーブでは考えられないことでしょうが、プラントでは確実に次世代を残すために、遺伝子の相性で婚姻を決める制度があるのですわ」
 それは自分たちの義務だから別段どうも思わないのだが、相手が誰なのかを気にしている者達が多数いるのだ……とラクスはため息をつく。
「誰が誰と結婚をしようと勝手だとは思いませんか?」
 どのような方であろうとも、それが義務である以上、受け入れなければいけないのに、とも彼女は付け加える。
「でも、ラクス……」
「私としても、自分の子供はこの手に抱いてみたいと思いますの」
 それが当然のことだと思っていれば受け入れることも簡単だ、というラクスの言葉に、キラは何と反応をすればいいのかわからない。自分にとっはおかしいしかと思えないことでも、プラントで普通だというのであれば、受け入れなければいけないのだろうか。
「キラにはシンもレイもおられますでしょう? おそらく、デュランダル様はそのおつもりでキラの側に彼等を置いておられるはずですわ」
「……って、シンかレイが、僕のお婿さんになるって事?」
 そんなことは考えたこともなかった。
 でも、そういわれてみればそうなのだろうか。そう考えて、キラは首をかしげる。
「お二人のうち、どちらの方でもキラを幸せにしてくれますわよ」
 キラも、お二人であれば、どちらでもよいのでしょう? とラクスは問いかけてきた。
「……うん……シンでも、レイでも、いやじゃない……」
 でも、そんなことを考えたことはなかった……とキラは心の中で呟く。家族だから心まで離れることはない。でも、いつかはきっと離れなければいけないのだ、とそう思っていたのだ。
「でも、二人がどう思っているかは、知らないから……」
 自分がそう思っているからと言って、彼等も同じ気持ちだとは限らないだろう。レイであればまだしも、シンは本当に偶然で一緒に暮らしているようなものだから……とキラは心の中で呟く。
「あらあら。そんなに悩むことですか?」
 ラクスが小さな笑いとともに言葉を口にする。
「見ていれば、わかりますわよ」
 そうなのだろうか、とキラがまた首をかしげたときだ。
「何の話?」
 今、来たらしいルナマリアが口を挟んできた。
「おはよう、ルナ」
 挨拶はコミュニケーションの基本だから、といわれていたから、キラは微笑みとともにこう告げる。 「おはようございます、ルナマリアさん」
 ラクスもまた同じように微笑みを向けた。
「シンとレイのキラに対する気持ちですわ。私の婚約の話からそちらに行きましたの」
 キラがわからないと言いますのよ……とさらに彼女は付け加える。
「ラクス!」
 だから、何でそれを言うのか! と言うように、慌てて彼女の言葉を遮ろうとした。しかし、もう遅い。しっかりとルナマリアの耳には届いてしまった。
「……キラ……鈍いにもほどがあるわよ」
 そして、彼女の唇から出たのはこんなセリフだ。
「ルナ……」
「やはり、ルナマリアさんもそう思われますでしょう?」
 キラの抗議の言葉を遮ってラクスがこういう。同時に、二人は手を取り合っている。
「でも、そういうところが可愛いんですよね、キラは」
「そうですわ。きっと、お二人もそう思っています」
 しかも、何故か変な方向で盛り上がっているような気がしてならない。
「ラクス……ルナ……」
 それはいいのだけれど、できれば本人のいないところでやってくれないかな、とも思う。
「難点があるとすれば、二人がキラよりも年下だって所ですけど……まぁ、一つや二つぐらいなら気にしなくてもいいですしね」
 二人のうち、どちらがキラの隣にいても目を楽しませてくれるから……とルナマリアは笑いながら口にした。
「何、それ……」
 何か、それは思い切り違うような気がするんだけど……とキラは呟く。
「何言っているの! それも重要よ」
 キラの友達である自分にとっては! とルナマリアは力説をした。
「そうですわね。確かに、それも重要ですわ。それ以上にキラを大切にしてくださることの方が重要ですけれど」
 ラクスはラクスでこう言って微笑む。
「まぁ、時間はまだありますもの。ゆっくりと考えるといいですわ」
 その前に、キラが恋愛感情とはどのようなものなのかを理解できるようにならなければならないだろうか、と彼女は付け加えた。
「それに関しては、やっぱり友人である私たちが手伝うべきでしょうか」
「もちろんですわよ、ルナマリアさん。キラのご家族は、本当に男性しかいませんもの」
 それでは、女性としての機微が理解できなくてもしかたがないだろう。だから、自分たちが手を貸してあげないと……とラクスも頷いている。
「だから……僕を放置して盛り上がらないでくれるかなぁ」
 キラは小さなため息とともにこう呟いた。