ラクスと仲がいいと周囲に知られたからだろうか。キラの周りにも人が集まるようになってきた。
 しかし、それがキラにとって幸いだったかというとそうではない。
 キラを足がかりにラクスと知り合いになって、彼女を蹴落とそうと考えているものもその中には多数いたのだ。
「取りあえず、そう言う方にはご遠慮願っていますわ」
 にっこりと微笑みながらラクスがこう告げる。
「キラは、私の大切な方ですもの」
 誰であろうと代わりになれるはずがない。それがわからない人間には、さっさと自分の側からいなくなってもらうのだ、と彼女はさらに続けた。
「ですから、少なくとも、今、キラの側にいる方々に関しては安心してかまいませんわ」
 一人は、レイやシンも知っているはずだし……とラクスはレイの瞳をのぞき込んでくる。
「俺たちも、ですか?」
「えぇ。確か、妹さんがあなた方と同じクラスだとそうおっしゃっていましたわ」
 この言葉に、レイは誰かと本気で考え込む。
「……メイリンのお姉さんじゃないのか? 確か、そうだって聞いたぞ」
 そんな彼にシンが助け船を出してくれた。
「ルナマリアさん、だったか、確か」
 言われてみればそんな気もする。そう考えながら、レイはシンに確認のために聞き返した。
「そうですわ。私がいないときにはキラのフォローをしていてくれるそうですの」
 ですから、安心しても大丈夫ではないか……とラクスは微笑む。
「男性陣にも何人かそれなりにおられますけど……あの方々は目的がちょっと不安ですから」
 キラは可愛らしいから、結構もてるのだ……と言外に付け加えられてレイは思わずため息をついてしまう。
「……キラ、怖がってませんか?」
 それでも、そちらの方が心配だ、とレイは問いかける。
「ですから、ルナマリアさんをはじめとした女性陣に頑張って頂いていますの。キラを守っているルナマリアさんは人気がありますのよ」
 こう言ってラクスはころころと笑いを漏らす。
「あぁ。何かわかる。王子様みたいで恰好いいとかって言うんだろう?」
 シンが何かを思いついたというようにこう告げた。
「えぇ、その通りですわ」
 確かにりりしいというのが一番適切な表現です、とラクスも頷いてみせる。
「何よりも、あの方は私よりもキラを好きでいてくださりますから。ですから、安心してお任せできるのですわ」
 キラよりも自分を優先するようでは、キラの友人としては失格だろう。ラクスはきっぱりとそういいきる。
「あなたがそう判断されたのでしたら、俺としては文句はありません。後は、キラ次第ですね」
 キラがラクスと同じようにルナマリアを信用しているのであれば、いずれうちに呼びたいと言い出すだろう。その時にじっくりと確認すればいいのか。もっとも、メイリンの様子を見ていれば、姉の方も十分信用できる人物だろうとは推測できる。
 レイがそんなことを考えていたときだ。
「あら、噂をすれば影、ですわ」
 キラとルナマリアだ……とラクスが微笑みながら視線を移動させた。それにつられるようにレイとシンも同じ方向へと視線を向ける。
「あ、ここにいたんだ」
 同時に、キラの声が耳に届く。
「ずるい。僕が先生の手伝いをしていたときに、三人でお茶をしていたんだ」
 頬をふくらませながら歩み寄って来るキラの背後に、見慣れた少女と、その少女によく似た少女がいる。おそらく、彼女がルナマリアだろう。
「すみません、キラ。仕事の都合でどうしても授業に間に合いませんでしたの。お二人と一緒であれば、必ずキラに会えると思いましたの」
 優しい微笑みとともにこう言い返されてしまえば、キラも何も言えないらしい。
「……でも……」
 それでも何かを言い返したいのか。必死に言葉を探しているようだ。
「ちゃんと手伝って上げたでしょう、キラ。だから、ラクス様にあまり文句を言わないの」
 くすくすと笑いながらルナマリアがキラの頭を自分の方へと引き寄せている。その仕草がある意味様になっているのが、ちょっと悔しいかもしれない……とレイは心の中で付け加えた。自分もシンも、まだキラよりも背が低いのだ。だから、そんなことをしても逆にキラに抱きしめられているようにしか見てもらえない。
「ルナが手伝ってくれたけど……でも、シンかレイが手伝ってくれてもよかったと思う」
 というよりも、シンとレイなら、そうしてくれて当然だ……とキラはさらに頬をふくらませた。
「それは無理でしょ。メイリンだって、私と待ち合わせをしていたから先に合流をできたんだし」
 いくらメイリンのクラスメートとはいえ、別行動をしていれば無理でしょ……とルナマリアが苦笑とともに口にする。
「でも……シンとレイだから……」
 理屈になっていないいいわけだ、とキラ本人もわかっているのかもしれない。だが、それがまたキラらしいと思ってしまうのは自分だけか。しかも自分たちのことを信頼してくれていると言うことがしっかりと伝わってくるから、余計に嬉しいとも思う。
「キラ……また、何かあったのか?」
 ふっと何かに気がついたのだろう。シンがこう問いかけてくる。
「ルナマリアさん?」
 ラクスはラクスで、確認をするように彼女の名を呼んだ。
「先輩に告白されたんですよ、キラ。でも、それが恐かったらしくて……」
 逃げてきたのよね? と問いかけられて、キラは素直に首を縦に振ってみせる。
「シンとレイがいるから、付き合えませんって……そういったんだけど、聞いてくれなくて……」
 だから、ルナの所に逃げたの……とキラは付け加えた。それでも、相手が追いかけてきたから、彼女が追い払ってくれたのだ、とも。
「まぁ、断って正解よ、あれ」
 女子はみんな嫌っているから、とルナマリアも頷いてみせる。
「そうですの」
 ラクスが微妙に微笑みの意味合いを替えた。もっとも、レイだって同じ気持ちだ。
「……やっぱ、これから、教室まで迎えに行こうか?」
 シンだけは別の表情をキラに向けている。もっとも、彼はそれでいいと思っているのだが。
「そうしてくれると、嬉しいけど……」
 でも、いいの? とキラは問いかけている。
「大丈夫。俺がダメなときはレイが行ってくれるし。な?」
 話を振られて、レイは同意をしてみせた。その方がキラが不安を感じないだろうと思ったのだ。
「その間は、私たちが側にいてあげるから」
 ね、とルナマリアも声をかけている。
 どうやら、キラの側には次第に彼女自身の魅力にひかれる者達が集まっているらしい。これならば、あの男がキラがここにいることを気付いたとしてももう手出しができない状況ができあがっているのではないだろうか。
 そうあって欲しい、と思うレイだった。