「……恐い、お嬢さんだな……」
 ラクスの後ろ姿を見送りながら、カナードはこう呟く。
「そうかな?」
 それを聞きつけたのだろう。ギルバートが苦笑とともに聞き返してきた。
「あぁ。あの年齢で、あれか」
 とても、キラと同じ年だとは思えない……とカナードは言葉を返した。もちろん、キラが悪いわけではない。今のキラは、自分たちにとって理想の姿だと言って言い。そうなるように育てたのだし、とカナードは心の中で呟く。
 だが、ラクスもまたキラとは正反対の意味で理想の存在だと言っていいのではないだろうか。
「あの年齢で、既にあのカリスマ性だ。あのままのびていけば、どうなるんだろうな」
 それ以上に、彼女が歪んだときが恐い……とそう思う。
「側に、正しい世界を見、それを伝えられる人物がいれば、大丈夫だと思うがね」
 ふっとギルバートは笑みを深める。
 ひょっとして、それを最初から期待されていたことなのだろうか。だからこそ、彼等はキラとラクスを引きあわせたのではないだろうか。そんなことも考えてしまう。
「それに、あの方のカリスマ性がキラを守ってくれることは実証済みだよ」
 今日もバカを一匹、退治してきたばかりだ……という言葉の方がカナード的には優先度が高かったが。
「理由は?」
「いつもの通りだよ。よほど、ウズミ様の不在が響いているらしいね」
 だからこそ、キラを使いたいのだろう。ついでに、自分の所のさらに輪をかけて馬鹿な息子を片づけようとしているのではないか、とギルバートがはき出す。
 その瞬間、カナードの機嫌が最悪なまでに急降下した。
 どこの誰かは知らないが、いっそそのバカ息子とやらを暗殺してやろうか、とそんなことまで考えてしまう。
「大丈夫だよ。ラクス様とキラがお互いの家を行き来するくらい親しいと告げたら、取りあえず大人しくなったから」
 それでも、正規の手順を踏んで訪問してくるもの以外に関してのセキュリティはさらに強めておいた方がいいだろうね……とギルバートはさらに強める。
「後は、キラの私室の周辺か。あぁ、いっそ、個人の生態データーをIDにしてしまうのがいいかもしれないね」
 子供達が寝た後に、それを作動させればいい。
 生態データーがIDになっているのであれば、彼等が目を覚ましてうろついても何の問題はないだろう。そうも彼は付け加える。
「それがいいだろうな」
 ついでに、自分達のものも登録しておけばいいだろう……と考えながらカナードは頷き返す。
「あいつらは、よく、お互いのベッドに潜り込みにいっているようだからな。それはまだ、禁止したくない」
 いずれはやめさせなければいけないのだろうが、とは思っている。もちろん、別の意味で相手のベッドに潜り込みに行くようになったのならば認めなければいけないのだろうが、そんな時間はまだまだ先のはずだ。
 その前に、しっかりとシンの方をしつけておかないとな……とも心の中で付け加えながら、彼はさらに口を開く。
「ただし……内々でそのようなシステムを作るのであれば、キラに協力をさせないと無理だぞ」
 自分に作らせようとしているのだろうが、一人では無理だ……と悔しいが認めざるを得ないだろう。特に、キラの安全がかかっているのであればなおさらだ。
「キラの?」
「あいつの発想は突飛だ。だからこそ、優れたシステムを作れる」
 こちらが考えつかないような解決方法を探し出してくるからな……と苦笑とともに付け加える。そういうところは、ハルマによく似ている、とも告げた。
「できれば、そちら方面の才能を伸ばしてやりたいと思っている」
 もっとも、キラ本人が望めば、のはなしだが……とは断りを入れておく。
「なるほどね。君がそういうのであれば、そうなのだろう」
 カナードも、その気になればザフトで専門部署にいる者達もかなわないだけの実力を持っているのだ。入隊すれば、ラウのようにそれなりの地位を得られるだろう。
 それでも、その選択をしないのは、いつでもキラを最優先できるように、だ。
 ラウもギルバートも立場を失うわけにはいかない。
 シンとレイでは、まだまだ安心できない。
 そう考えれば、自分だけは身軽でいないといけないのではないか、とそう思うのだ。自分がそうすることで、ラウとギルも安心して立場がためにいそしめるだろうと考えていることも否定はしない。
「ともかく、今は、もっといろいろな経験をさせたい」
 その中で、もっとキラにあった仕事があるかもしれないしな、とカナードは笑う。
「もちろんだよ。キラの希望もあるからね」
 それに関して、邪魔をしないしさせるつもりもない……とギルバートも頷いてみせた。
「だが、今は普通の学校生活が優先かな? 交友関係も、ゆっくりと広げさせていけばいい」
 ラクスとレイ達がさりげなくチェックを入れてくれるだろうからね……と彼が付け加えたときである。
「お兄ちゃん、今日はありがとう」
 言葉とともにキラがカナードの腰に抱きついてきた。その後を、当然のように二人が追いかけてくる。
「ラクス様はお帰りに?」
「はい。エレカが門から出て行くところまで見送らせて頂きました」
 ギルバートの問いかけに、レイがきまじめな口調で言葉を返した。
「っていうか、キラがずっと手を振っていたんだよな」
 そんなキラを一人にしたくなかったのだ……とシンがぼそりと付け加える。
「シン?」
「いいんだよ。俺たちが少しでも長くキラの側にいたかったんだから」
 だから、キラは気にするんじゃない! とシンは言い切った。
「そうだぞ、キラ。女性を一人にするような男は一人前じゃない。だから、こいつらの態度は正しいんだよ」
 ハルマだって、仕事の時以外ではいつでもキラやカリダの側にいただろう? と付け加えるカナードに、キラは頷いてみせる。
「と言うことで、そいつらの行為が嬉しければ笑ってやれ。それだけでいいんだよ」
 女性の特権だ……と付け加えれば、シンを除く周囲の男性陣が微苦笑を浮かべた。
「ともかく、リビングに移動しようか。いつまでも立ち話ではないだろう?」
 しかし、このことをラウが知ったらすねるかな? と不意にとんでもないセリフをギルバートは付け加える。そんなラウを思わず想像してしまってカナードはげんなりとしてしまう。
「……恐いことを言わないでください……」
 そう呟く彼に、ギルバートは笑い声を立てる。そのまま手を伸ばすと、彼はキラの体を抱き上げた。
「と言うことで、移動しようね」
 そのまま、彼は歩き出す。しかたがない、と言うようにため息をつくとカナードを追いかける。シンとレイの二人も同様だった。