ともかく、校内でも気をつけるように。何かあったら、すぐに連絡を寄越しなさい。 この言葉におくられてキラはラボへと向かった。 「よかった……無事だったんだ」 そこには、昨日、追い出されたときのままの形で自分たちの学習の成果が置かれてある。慌てて駆け寄ったが、どこも壊された様子はない。 もっとも、とキラは苦笑を浮かべる。 「やっぱり、ね」 そのあちらこちらに、カトーがつけたとおぼしきメモが張られていた。その多くが改修点であることは一目でわかってしまった。 「キラ……」 一足先に来ていたらしいサイが、教授の研究室から顔を出す。そのまま、苦笑と共に自分を手招いているのがキラにも見えた。 「教授?」 この言葉に、彼は苦笑と共に頷いてみせる。 ひょっとして、これのことかな。 一瞬だけ壁際に置かれた自分たちの作品へと目を向けると、キラはサイの方に歩み寄っていく。 「何か、厄介ごとみたいだ」 そうすれば、彼がこう囁いてくる。 「それで、俺たちに相談だってさ」 このラボの中心人物と言えば、結局自分たちになるんだろうな……とサイは続けた。 「どうせなら、みんなが揃ったときにすればいいのに」 その方が手間が省けるのではないか。キラはそう言い返す。 「と言うか……説明の手間を俺たちに押しつけたいんじゃないのか?」 「……可能性は否定できない」 そういうことに時間を割くよりも、自分の研究に打ち込んでいたい。そう考えているのがカトーなのだ。だから、公私混同とも言えるようなデーター整理をキラに押しつけてくることもある。 それでも、彼の元で学ぶことが多いし、データーから読み取れる内容も興味深い。 その位の役得がなければ、そんな雑用なんてやっていられないのだ。 しかし、今回はその役得もなさそうだな、とキラは思う。 「かといって、話を聞かないと教授のご機嫌が直らないんでしょ?」 しかたがない、と覚悟を決める。 「あれのおかげで、少しはよくなったようだけどな」 ちらっと、視線を向けながら、サイは苦笑を深めた。 「気分転換をしようとして、徹夜になった……とおっしゃってたよ」 あのメモつけで、と彼はさらに付け加える。 「みたいだね。OSの方も不具合があったのかどうかを確認しておかないと」 データーの書き換えはされてないといいな、とキラは呟く。 「それはないと思うけどな。ついでに、本人に確かめよう」 この言葉に、キラは小さく頷く。 「と言うことで、機嫌がこれ以上悪くなる前に顔を出すか」 この言葉とともにキラもまた目の前のドアをくぐった。 「……留学生、ですか?」 それも、このゼミに……とキラは思いきり顔をしかめる。 「他の学生達から文句がでそうですね」 その隣で、サイもため息をつく。 カトーゼミはこのカレッジの中で一二を争う人気なのだ。そのために、優秀でなければ入ることが出来ない。実際、キラ達も、ゼミに入った当初はあれこれ言われたのだ。 それなのに、留学生だからと言う理由であっさりとゼミに参加できる。 そうなると、不公平とは思われないだろうか。 キラとサイは言外にそう付け加えた。 「わかっているのだが……上からの依頼でね……」 政治的何とか、と言うやつらしい……とカトーはため息とともに口にする。 「少なくとも、教育と政治は切り離して欲しいのだが……そういうわけにはいかないようだ」 自分としては、思い切り不本意だが……と彼はさらに言葉を重ねた。 「もっとも、そちらに関しては事務局の方で対処をしてくれると言っていたが……どこまでアテになるだろうね」 一応、自分も彼等には『覚悟をするように』とは伝えてあるが。カトーはこういうとっまたためいきを付いた。 「それでも来るというのでしたら、とりあえず、歓迎するしかないでしょうね」 もっとも、ゼミ以外ではフォローできるかどうかはわからないが。サイはこういう。 「プラントのコーディネイターはプライドが高い、と聞いていますから」 自分たちの言葉をどこまで聞いてくれるか。キラもそう告げる。 「でも……キラもコーディネイターだろう?」 サイが驚いたように視線を向けてきた。 「……僕は、第一世代だよ」 だから、第二世代が多いプラントのコーディネイターからは余りよく受け止められない。キラは苦笑と共にこう告げる。 「ここに来る前、何回か、そういうことがあったから」 予想外の言葉だったのか。サイが目を丸くした。 「その時は、俺たちがフォローするから」 しかし、彼はすぐにこう言って微笑む。 「そいつらはともかく、キラは大切な仲間だしな」 こう言ってもらえて嬉しい。 「ありがとう」 キラは微笑みと共にこう口にする。 「でも、色々と大変になるね」 「そうだな」 キラの言葉に、サイも頷く。まずは、他の三人への説明かもしれない。そう考えた瞬間、二人の口からほぼ同時にため息がこぼれ落ちた。 |