だが、まだ、ミリアリア達は大人しかったと言っていい。
「何よ、それ!」
 その話を聞きつけたフレイが、怒りを隠せないという表情で乗り込んできた。
「どうして、そいつらだけ優先されるのよ!」
 信じられない、と彼女は大声で叫ぶ。
「フレイ、落ち着いて……頼むから」
 慌てたようにサイが彼女を落ち着かせようと腰を浮かせた。
「学校側からの指示だって言うから……教授がせいじゃないよ」
 どこからか圧力がかかったようなことを言っていたから、と言うセリフは逆効果なのではないか。
「何よ、それ!」
 ますます信じられない、と彼女は騒ぎ出す。
 このままでは、余計な注目を集めてしまうのではないか。そう判断をして、キラもまた椅子から腰を浮かす。
「フレイ……」
 そのまま彼女に声をかければ、勢いよく視線を向けられた。
 いや、それだけではない。
「キラ!」
 飛びつくように抱きついてきた。とっさにトールが支えてくれなければ、フレイごと倒れていたのではないだろうか。
「キラはそれでいいの?」
 その事実に気が付いているのかいないのか。フレイはそのまま問いかけてくる。
「……いいも悪いも……決まっちゃった以上、しかたがないかなって」
 それに、こうなったら……とキラは小首をかしげた。
「コーディネイターが来るなら、こき使ってもいいよね」
 にっこりと笑いながらこう続ける。
「キラ?」
「だって、データー整理が辛くなってきたんだもん」
 最終的に自分がするとしても、手伝わせるぐらいは構わないよね……とさらに言葉を重ねた。
「……キラ……」
 このセリフは流石のフレイも予想していなかったのか。目を丸くしている。
「そうすれば、あれのOSを改良する時間も取れるだろうし……」
 うまくいけば、年度末のコンペに出せるかもしれないでしょう? と言えば、サイ達の表情が変わっていく。
「だよな。そっちは俺たちには手伝えないけど……機体の方は今回のことで何とか出来そうだもんな」
 教授のおかげで、と苦笑と共に告げたのはトールだ。
「そうよね。本体は、私たちが頑張ればいいもの」
 ミリアリアも笑いながら頷いてみせる。
「でも、間に合うのかな……あんなにたくさんの修正箇所があるなんて……」
 ただ一人、カズイだけが後ろ向きと言えば後ろ向きのセリフを口にしていた。だが、それもいつものことと言えばいつものことだと言っていい。だから、誰も気にしない。
「キラ達がそれでいいなら、いいけど……でも、校内中、大騒ぎだわ」
 もっとも、その矛先がキラ達ゼミ生に向けられることはないと思うけど……とフレイは付け加える。
「ただ……同じコーディネイターだからって、キラが非難されるようなことになったら、どうしようかと……」
 それだけが不安なの、と彼女は続けた。
「大丈夫だよ。そこまで、みんな、バカじゃないでしょう?」
 プラントからの留学生が始めてくるわけじゃないし、とキラは彼女を安心させるかのように微笑む。
「それに、僕にはプラントに知り合いなんていないよ」
 いや、いないわけではない。
 だが、相手が覚えているかと言えば別問題ではないか。
 相手が覚えていなければ、いないのと同じだろう……と心の中で呟く。
「……キラ……」
 少しだけほっとしたような表情をフレイは作った。しかし、それではまだ安心できないのか。
「いいわね! あんた達がキラの盾になるのよ。もちろん、サイも」
 でも、キラに恋愛感情を抱いたら許さないんだから……と彼女はカズイを指さしながら言い切る。
「……何で、俺……」
「決まってるじゃない! サイがキラをそういう意味で好きになるはずないもの。トールにはミリィがいるし」
 だから、一番不安なのはあんたなの! と彼女は主張をした。
「大丈夫よ、フレイ」
 微笑みと共にミリアリアがフレイの肩に手を置く。
「キラがカズイを《男》として意識するはずがないから」
 何げに酷いセリフを言っているような気がするのは錯覚だろうか。
「……ミリィ……それにフレイも……」
 慌ててキラは二人を止めようと声をかける。
「せめて、あのお兄さん達レベルの相手でないと、認められないし」
「そうよね」
 それなのに、二人は当人を無視して盛り上がっていて、キラの言葉に耳を貸してくれない。
「……お願いだから、二人とも……」
 本当にどうすればいいのだろうか。
「あきらめろよ、キラ」
 そう考えていれば、トールがため息とともに声をかけてくる。
「こうなったら、放っておいたほうがいいって」
 落ち着くまで、誰の言葉も耳に入らないって知っているだろう? と付け加える彼の口元には苦笑が浮かんでいた。
「そうだな。とりあえず、俺もそういった意味ではカズイを進められないし」
 さらにサイまでもがこんなセリフを口にする。そんな彼の背後でカズイがどのような行動をとっていたのか。それは口にしない方がいいのかもしれない。