ラクスのファンは、予想以上にヘリオポリスにもいたらしい。会場の中はもう、立錐の余地もないほどだった。
 もっとも、キラ達はラクスやカガリ達が手配をしてくれていたおかげできちんと席を確保できていたが。
「……他の人たちに、何か言われるかな……」
 キラは思わずこう呟いてしまう。
「気にしなくていいのよ!」
 即座に、フレイがこう言い返してくる。
「あの子は、キラの友達の一人なんでしょ?」
 さらにこう問いかけられて、キラは静かに頷いて見せた。
「あの子がここで人気なのと、キラとあの子が友達なのは別問題でしょう?」
 そして、とさらにフレイは言葉を重ねる。
「そもそも、あの子がここでコンサートをしてくれるのは、キラに聞かせたいから、じゃないの?」
 だったら、自分たちの方がおまけだ。キラが聞かなければ意味がないだろう、ときっぱりと言い切る。
「そうだな。俺たちの分は『キラのゼミのお友達』とひとくくりだったみたいだし」
 それでも特等席を貰ったから、文句は言えない。何よりも、自分たちとラクスは、顔を合わせたこともない……と付け加えたのはサイだ。
「それでも、恨まれているみたいだけどな」
 何か、視線が突き刺さってくる。そういった瞬間、カズイの頭に、左右から拳が飛ぶ。
「ミリィにトール……」
 そこまでしなくても、とキラはため息をつく。
「いいのよ、このくらい」
 自分だって、彼女のコンサートは見たいのに、ぶつぶつ言う方が悪いのよ……とミリアリアはまたカズイを小突いている。
「ミリィ……本当のことでも、あまり暴力はよくないと思うぞ」
 そういいながらも、トールはトールでカズイの足を踏みつけていた。
「気に入らないなら、帰ればいいのに」
 さらにフレイが追い打ちをかける。
「……そこまで言わなくても……」
 カズイはまさかここまで自分が非難されるとは思っていなかったのだろう。少し涙がにじんでいる。
「みんな……」
 それにしても、以前はここまで彼にきつく当たらなかったような気がするのだが、と思いながらキラは呼びかけた。
「何?」
「僕がいない間に、何かあった?」
 聞いておかないと、後々困るだろう。そう考えて思い切って疑問をぶつけた。
「ちょっとな」
「キラが気にすることじゃないわ」
「そうそう。カズイが自爆しただけだって」
 聞かなくても困らない、とサイが締めくくる。
「それよりも、キラ!」
 ぐいっとフレイがキラの腕を引っ張った。
「この服、どうしたの? あたし、見たこと、ないんだけど」
 持ってなかったわよね……と彼女はそのままキラの顔をのぞき込んでくる。
「これは……ラクスに『着てきてください』って……今朝、渡されたの」
 その位のお願いなら叶えても構わないかなって、そう思ったのだ。キラはそう続ける。どうやら、プラントからわざわざ持ってきてくれたようだし、とも。
「似合わない?」
 だから、フレイが怒っているのだろうか。
 そんなことを考えて、キラは問いかける。
「似合っているわよ!」
 だから、悔しいのだ! とフレイは叫ぶように口にした。
「フレイ?」
 意味がわからない、とキラは救いを求めるように視線をミリアリアへと移動させる。
「フレイが選んだ服じゃないから、でしょう」
 だからといって、キラの兄たちが選んだわけでもない。その事実が不本意なのではないか。
 ミリアリアは苦笑と共にこう教えてくれる。
「そんなこと、言われても……」
 困る、とキラは呟く。
「わかっているわよ! ただの八つ当たりよ!!」
 どうして、自分がそのラインの服をキラに着せなかったのか。その事実が悔しいの! とフレイは叫んだ。
 まるでそれを合図にしたかのように、ステージにライトが当てられる。
「ほら、始まるよ」
 それに、とキラはフレイを見つめながらさらに言葉を続けた。
「これが終わったら、フレイとミリアリアには絶対会いたいって言っていたんだけど、ラクス」
 自分の服のことも含めて……とため息混じりに付け加えれば、フレイの表情がいつもの勝ち気なものへと戻る。
「それは楽しみだわ」
「……と言うことは、私はストッパー役に徹した方がいいわね」
 そんな彼女を見つめて、ミリアリアが優しい笑みを浮かべた。
「サイ達も来てくれるよね?」
 改めてキラは男性陣に問いかける。
「カズイは禁止よ!」
 しかし、何故かミリアリアがこう断言をした。
「賛成。あんた、無自覚にとんでもないセリフを口にするもの。そのせいで、オーブとプラントの関係が悪化した、なんて事になったら笑い事じゃすまないわ」
 さらに、フレイも追い打ちをかける。
「……どうせ……」
 これもまた、日常だと言っていい。しかし、本当にいいのだろうか……と心の中で呟いたときだ。
「ヘリオポリスの皆様」
 ステージからラクスの柔らかな声が響いてきた。