何か怖い。
　にこやかな光景なのに、何か緊張しているような気がするのは自分の錯覚だろうか。キラはそんなことを考えてしまう。
「どうかしましたか、キラさん」
　コンサートには間に合わなかったものの、こちらには合流しているニコルがそっと声をかけてきた。
「ちょっと、あそこの一角が怖いな、って思って……」
　視線だけで、ラクスとフレイの方を指し示す。
「まぁ……話が合いすぎているだけでしょう」
　その会話を少し聞いた後で、ニコルがこう言ってくる。
「お互い、服の好みの方向性が違うから、余計に……ですね」
　その上、キラがどちらも着こなしてしまうから、余計に白熱しているのだろう。
「でも気をつけないと、キラさんのウエディングドレスまで決められてしまいそうですね」
「……えっ？」
　何、それ……と呟きながらキラは二人の会話に意識を戻す。
「その前に、キラが彼氏を作ることが先決でしょう？」
　まっとうな意見を言ってくれたのはミリアリアだ。
「まぁ……そうなんだけどね」
「ですが、わたくしたちの目から見ても、キラにふさわしいかどうかをきちんと確認させて頂かなければ」
　自分たちが不合格を出すような相手にキラを任せられるか、とラクスが言えば、フレイも即座に頷いてみせる。
「……そんな相手、いるのか？」
　ぼそっとイザークが呟く。
「だよな。俺たちですらラクス嬢に合格点、貰ってないぞ」
　それでも、キラが婚期を逃すようなら妥協して貰えるだろうが……と苦笑と共にディアッカが口にした。
「あなたにそのような日が来ることはありませんから」
　もし、何かの冗談でラクスがディアッカを認めたとしても、自分が許可しないから……とニコルが微笑みと共に続ける。
「それは怖いからやめてくれ」
　本気でディアッカがこう言い返す。
「まぁ、その前にラウさん達が排除にかかるだろう」
　今まで黙っていたアスランが、不意に口を挟んでくる。
「それでもまだ押しかけてくるようなら、ラクス達が動くのだろうな」
　もちろん、その時は自分たちも巻き込まれることになるだろう。
　だが、それでもキラのことをあきらめないなら妥協してやってもいいのではないか。そうも付け加えながら、アスランはさりげなく視線を外へと向けた。
「あいつらのようにか？」
　そこには、カナードに何か文句を言われているらしいシンとレイの姿が確認できる。
「まぁ、議長はともかくあいつらに罪はない……と思うが」
　たとえ、デュランダルの思惑に乗ったとしても、キラを好きだという気持ちには嘘はなだそうだし、とアスランはため息をつく。
「もちろん、認められるかどうかは別だぞ？」
　キラよりも年下というのが少し引っかかる。そんなセリフを彼は口にした。
「でも、その代わりに今からびしびししごく、と言うことも出来ますよ？」
　見つけられないなら、満足できるような存在を自分たちで育て上げてしまえばいい。ニコルはこう言って微笑む。
「まぁ、その候補に入れておいていいんじゃないですか？」
　もっとも、と彼は言葉を重ねる。
「あの人の攻撃を避けられたら、の話ですけど」
　次の瞬間、玄関の方から響いてきた雄叫びが誰のものか、キラにはよくわかってしまう。
「カガリ？」
　あれこれすることがあったんじゃないの？　といいながらキラは思わず腰を浮かせる。
「ちょうど良かったですわ。カガリにも加わって頂きましょう」
　だが、それよりも先にラクスが行動を開始した。
「……言っておくけど、あたしは自分の意見を引っ込める気はないから」
　そんな彼女の背中に向かって、フレイが言葉を投げつける。
「フレイ？」
「あの子が選ぶ服も、確かにキラによく似合うわよ？　でも、あたしには似合わないの！」
　おそろいに出来ないでしょう！　とフレイはミリアリアに言葉を返している。それも何なのだろうか、とキラは首をかしげたくなる。
「あれなら、大丈夫だな」
　しかし、幼なじみの男性陣は違う感想を持ったようだ。
「だろうな。ラクスが排除にかかっていない」
　とりあえず、キラの側にいても大丈夫な相手……と認めたのだろうな。そうアスランは告げる。
「そのようだな」
　だが、あれはあれでマイナスにはならない。そう、イザークも頷いて見せた。
「少なくとも、キラのお兄さん方が側にいるなら、驚異にはならないだろうな」
　あの人達の判断は正しいから。そうも彼は付け加える。
「個人的には、これでオーブ、プラント、そして地球連合の情報があの三人の間で共有されるかもしれない、と言うことが微妙に怖いんですけど」
　ふっと、ニコルがこんなことを呟く。
「そんなこと……」
「ないとは言えないか」
　そうなると、最強になるのはやはりラクスなのだろうか。アスランは乾いた笑いと共にこう問いかける。しかし、それに答えられることは誰も出来ない。
　そうしている間にも、カガリとシン達がカナード達に引きつれられて姿を現した。
「とりあえず、下僕と言うことで妥協したからな。こき使っていいぞ！」
　カガリがこう言ってくる。
「何なの、それ！」
　慌てて、キラは聞き返す。
「あら、いいじゃない？」
「そうですわ、キラ。下僕から昇格できるかどうかは、これからの言動次第だと思いますし」
　しかし、ラクスとフレイが揃ってカガリに賛同した以上、誰も反論できるはずがない。しかも、カナードも彼女たちの味方のようだ。
「……人を抜きに決めないで！」
　こう言い返すのが精一杯だった。

　とりあえず、キラの周囲にまた平穏な日常が戻ってきたことだけは事実だろう。それが少しでも長く続けばいい、と誰もが願っていた。


終