キラがラウ達と共にヘリオポリスに戻ったのは、それからすぐのことだ。
 ラクス達もまたヘリオポリスへと寄港している。しかし、彼女たちの目的を知っている以上、当然のことだ、とキラは考えていた。
 しかし、と思う。
「何で、うちに転がり込んでくるわけ?」
 ヘリオポリスにもホテルはある。そうでなくても、アスハやサハクの別邸があるではないか。
 そちらの方が十分なサービスを得られるだろう。
「だって、ここにはキラがいますもの」
 そう思って問いかけたキラに、ラクスは微笑みと共にこう言い返してくる。
「あなたの側にいて、あなたの姿を見ている。それ以上に嬉しいことなんて、わたくしにはありませんわ」
 アスラン達もそう思っていると思います、とラクスはにこやかに付け加えた。
「……こき使われているのに?」
 そういいながら、視線を庭へと向ける。そこではラウの指示の元、カナードと共に何か作業をしているアスランの姿があった。
「あれは、楽しんでいるから構わないのではありませんか?」
 元々、機械いじりが好きだっただろう、とラクスは微笑む。
「……そういえば、そうだったっけ」
 細かい作業が得意だったとは記憶しているけど、とキラは頷く。
「それは、元々の性格が細かいからですわ」
 それも、余計なことばかり……と彼女はわざとらしいため息をつく。そのまま、カップへと手を伸ばした。
「……そういえば……」
 プラントで何かをやらかしたのか。これ以上聞かない方が身のためではないか、とそう判断をして、キラは話題を変えることにした。
「明日のコンサートでも、アスランの作ったシステムが使われるって聞いたけど……」
 だからといって、いきなり全部変えては意味はない。そう思って関係のありそうなことを口にしてみた。
「そうですわ。悔しいですけど、それでもコンサートには必要ですもの」
 でも、コンサートは自分にとって仕事だ。だから、最高のものにしたい。そうラクスは言い切る。
「でも、アスランのシステムは使いたくありませんの」
 そのせいで、彼の株が上がるのが気に入らない。そんなことまでラクスは口にした。
「……ラクス?」
 それの何が悪いのだろうか。そう思って、キラは首をかしげる。
「キラにではありませんわ。キラのお友達の、です」
 ラボの研究内容とは違うかもしれないが、ものを作るという点では話が弾むかもしれないから。そうなれば、自分ではなく彼に直接連絡を取ろうとする人も出てくるかもしれないだろう。
「わたくしが知らないことを、アスランが知っているのは不本意ですわ」
 要するに、そういうことなのか。
「それなら、ラクスはラクスで友達を作れば?」
 女の子同士なら話が弾むのではないか。
「……フレイなら、ラクスと話が合うかも」
 ファッションもメイクも、彼女は好きだから……とキラは付け加えた。
「そうなのですか?」
「うん。最近の僕の服の半分は、フレイが選んでくれたものだよ」
 自分だと、どうしてもシンプルなものとか男っぽいものを選んでしまう。
 それは小さな頃の経験からだからしかたがないのではないか。
 でも、他人の目からするともっとキラに似合うものがあるの。だから、一度騙されたと思って、自分の選んだ服を着てみて。
 そういわれて、一緒に買いに行った服が兄たちに好評だったから……とキラは微笑む。
「ひょっとして、今日着ていらっしゃるの服も、ですの?」
「うん、そうだよ」
 似合わない? とキラは首をかしげてみせる。
「いえ。とても似合っていらっしゃいますわ」
 ただ、とラクスは少しだけ視線を落とした。
「わたくしなら、別のイメージの服をあなたに着せたいと思っただけです」
 そのあたりについて、少し議論を交わしてみたい。彼女はそうも口にする。
「ラクス……」
「大丈夫ですわ。ケンカはしませんから」
 あくまでも議論だけだ、と静かに付け加えた。
「……それはいいけど……」
 でも、白熱しすぎないでね……とキラは頼む。
「後……カガリは巻き込まないで」
 カガリは、間違いなく実力行使にでる。そうなった場合、誰が事態を収拾できるというのか。キラはそう呟く。
「あの方は」
 しかたがありませんわね、とラクスは苦笑を返す。
「出来るだけ、ご要望に添うようにしますわ」
 その前に、と彼女はまた柔らかな笑みを浮かべる。
「最高のコンサートをお見せします。ですから、必ずおいでくださいませ」
 タイミングが合えば、ニコルも参加してくれると言っていた。そう彼女は付け加える。
「うん。楽しみにしている」
 それにキラは微笑み返した。