キラ達がカナードのケーキを堪能しているうちに、何故か全てが終わっていた。
「……どういうことになったの?」
 そう問いかけても、この場にいた者達にはわかるはずがない。
「気にするな」
 その中にはもちろん、カナードも含まれている。
「兄さん達が同席していたんだ。少なくとも、お前に不利益な状況になっているはずがない」
 それに、と彼は微笑む。珍しいのか――あるいは、初めて見るのかもしれない――アスラン達が驚きの声を上げた。それが不快だったのか、カナードは彼等をきつい目でにらみつける。それで、彼等は言葉を失った。
 すぐに興味をなくしたのか。カナードは視線をキラへと戻してくる。その時にはもう、その口元に笑みが浮かべられていた。
「お前には元通りの生活をさせてやりたい、とサハクのお二人も言っていたしな」
 だから、とりあえずそちらのことは彼等とアスハに任せておけばいい。そうも彼は続ける。
「そうだな。キラはとりあえず、ゆっくりと休め」
 ヘリオポリスにもキラのことを心配している人がいるだろう? とカガリも口にした。
「そういえば、お友達が出来たのですわよね?」
 カガリの言葉に、ラクスが今思い出したというように問いかけてくる。
「うん」
 みんな、ナチュラルだけど……とキラは小さな声で付け加えた。
「そんなこと、気にしませんわ! 重要なのは、キラのことを本当に好きかどうか、ですもの」
 ねぇ、とラクスは視線をアスラン達に向ける。
「そうだな」
 ナチュラルにこだわりのないアスランはあっさりと頷いて見せた。
「確かに。そういう人間なら、認めてやってもいい」
「って言うか、素直に『認める』って言ってやれよ」
 本当に、とイザークの言葉を聞いたディアッカがため息をついている。
「イザークだからな。無理だろう」
 ツンデレ、とか言う奴じゃないのか? と口にしたのはカガリだ。
「……ツンデレ?」
 自分が、割と専門外に疎いことは自覚している。だから、と言うわけではないが、キラは思わず首をかしげてしまった。
「それなら、フレイ・アルスターだな」
 キラが知っている中でその言葉がぴったりと来そうなのは……とカナードが口にする。一番年齢が近いこの兄は、予想外にその手のことに詳しいのか。それとも、ムウの影響なのか、とキラは別の意味で首をかしげたくなる。
「キラに関してはでれでれだが、害虫には容赦しないぞ、あれは」
 味方につけておいてプラスになっても、マイナスにはならない。ラウはそういっていた。
 他の人間では『そこまで言うか』と言われそうなセリフだが、ラウが相手では納得するしかない。
「それは、是非ともお会いしなくては」
「そうだな。友人にはなれなくても、共同戦線だけは張らせて貰おう」
 そうすれば、キラの安全は確保できるのではないか。カガリはそう言って笑う。
「しかし……アルスター?」
 聞き覚えがあるような気がするが、とアスランが呟いた。
「確かに。どこでだ?」
 自分も知っている以上、それなりに公的な立場の人間か? とディアッカが口にする。
「フレイのお父さんは……大西洋連合の事務次官だって……」
 もっとも、フレイ個人はとてもいいこだよ? とキラは言葉を返す。だから、変な偏見は持たないで欲しい、とも。
「あぁ。あれは自分の父は敵にしても、キラの敵にはならないな」
 それだけは断言できる、とカナードも頷いてみせる。
「ともかく、本人の言動を見てから判断しろ」
 見ていると、ある意味楽しいぞ……と彼はさらに言葉を重ねた。
「楽しすぎて、ついついつつきたくなって困るがな」
「カナード兄さん!」
「冗談だ。それに、相手はナチュラルの女だからな。しかも、お前よりも年下とあっては、手荒なことなど出来まい」
 カガリレベルであれば、多少の手加減ですむだろうが……と真顔で言い返される。
「……それって、ほめ言葉なのか?」
 カガリはそう呟いた。
「深く考えるな」
 カナードは即座にこう言い返している。
「お前は丈夫でないと困る」
 最悪、戦場に出なければいけない立場だ。そうである以上、それなりの体力と技術を身につけていなければいけない。そうも彼は付け加える。
「ミナやギナほどの技量は求めないが……あのバカ息子よりは強くなって貰わないとな」
 今回は、それが役に立っただろう? とそういって彼は笑った。
「そうだな。あぁ、後でラクスにも紹介してやるよ。世界一のバカを」
 カガリはそれに頷いてみせる。
「……バカ息子って、ユウナ・ロマ・セイラン?」
 彼は何かしたの? とキラは首をかしげた。
「キラは知らなくてもいい。政治的なことだからな」
 だから、ラクスには知っていて欲しいのだ。カガリはそういってくる。
「それよりも、今度はキラの手料理が食べたいな、私は」
 これが話題をそらすためのセリフだと言うことはわかっていた。
「わたくしも食べたいですわ」
「そうだな。何やら自慢されたし……」
「あれか」
「ちょっとむかついたよな、あれは」
 プラント組にまでこう言われては聞き入れざるを得ない。
「……後で、ミナ様から許可を貰っておくよ」
 でなければ、ヘリオポリスに返ってからか……と首をかしげる。
「楽しみにしておりますわ」
 それに、ラクスが満面の笑みと共に言葉を口にした。