アマノトリフネに一機のシャトルが滑り込んでくる。
「キラ!」
 デッキにエアが満たされ、ハッチが開くと同時に、カガリは叫んだ。
 そのまま床を蹴る。
「……カガリ?」
 しかし、そんな彼女を抱き留めてくれたのはキラではなかった。ついでに言えば、ラウでもない。
「危ないぞ!」
「……うるさい!」
 邪魔をするな、ディアッカ! とカガリは幼なじみの一人をにらみつける。
「邪魔はしてないって。ただ、その勢いで飛びついたら、キラまで吹き飛ばされるだろう?」
 それでは、キラがケガをするかもしれない。だから止めたのだ、と彼は付け加える。
「……仕方ないだろう。キラ不足、だったんだから……」
 不安だったし、とカガリは頬をふくらませながら口にした。だから、今すぐに確認しないと納得できなかったのだ。そうも彼女は付け加える。
「気持ちはわかるが……」
 だが、とイザークがわざとらしいため息をついてみせた。
「お前はまだ、直接、通信が出来るだろうが」
 自分たちは、たまにメールをするくらいしかできなかったのだぞ! と彼は少しだけ声音に怒りを滲ませる。
「しかも、最近はなかなかメールも出来なかったしな」
「それはお前の都合だろう?」
 カガリはむっとして言い返す。
「お前らのメールは、どんな事態になっても必ず届くように手配してあるぞ」
 さらにこう付け加えた。
「まぁ、そうだったのですか?」
 それを受けて、だろう。ラクスの驚いたような声が周囲に響いた。
「確かに、いつ、キラにメールを送っても、必ず返事が返ってきたな」
 もっとも、自分たちもキラ達のメールアドレスは確実に目的地に届くように手配して貰っていたが。アスランはアスランで納得したように頷いてみせる。
「まぁ、父上もキラは可愛がっていたからな」
 時々、キラから送られてくるメールを見ては喜んでいた。彼はさらにこう付け加える。
「心配するな。うちの母も、だ」
「そういや、親父も誕生日のお祝いメールが来たと言って喜んでいたな」
 だから、キラは相変わらず親世代に可愛がられているのかもしれないな……とディアッカも頷いていた。
「うちにも来ておりますわ。と言うことは当然ニコル様の所にも送っていらっしゃるのでしょう?」
 こう言いながら、ラクスは視線を背後へと向ける。
「だって、おじさま達、毎年、僕の誕生日に贈り物をくださるんだもん。せめてメールぐらいはと思うじゃない」
 礼節は大切だって、ラウが言っていたから……と口にしながら、キラが二人の後から顔を出す。しかし、その隣にラウの姿はない。
「ラウさんは?」
 彼がキラの側を離れるなんてあり得ない。そう思いながらカガリは問いかける。
「エターナルですわ。何やら、話し合わなければいけないことがおありだそうで」
 だが、自分たちが信頼している人物が側にいるから大丈夫だ。ラクスが安心をさせるように言葉を重ねた。
「ニコルもいるしな」
 ラウの側に、とアスランが付け加える。
「……なら、大丈夫か」
 ラウの身柄は絶対に安全、と言うことだな……とカガリは呟く。
「僕は兄さんも一緒に帰ってきてくれた方がよかったんだけど」
 自分のせいで、かなり疲れていたように思うから……とキラは続けた。ここならば、きっと、ゆっくりとはいかなくてもそれなりに休めたのではないか。
「大丈夫ですわ。ラウ様には絶対に無理をさせないように、とお願いしてきましたから」
 ニコルはともかく、バルトフェルドの言葉であれば彼も聞き入れてくれるのではないか。
「第一、デュランダル議長にラウ様をいじめる気力があるとは思えませんわ」
 ふふふ、と笑いを漏らしながら付け加えられた言葉に恐怖を覚えたのはカガリだけではあるまい。
「ともかく、だ。カナードさんがケーキを焼いてくれているぞ。立ち話もなんだから、移動しよう」
 ともかく、これ以上つっこんではいけない。だから、とカガリがこう告げる。
「カナード兄さんが?」
「あぁ。他に、私とラクスの分は確実にあると思うが……」
 男性陣の分はわからないな。言葉とともにカガリは首をひねった。
「……まぁ、そんなところだろうな」
 彼の中で自分たちはあくまでも『おまけ』だから、とアスランがため息をつく。
「あの人相手に文句を言っても、意味はないか」
「キラ第一だから、な」
 女性陣に優しくするのは、きっと上の二人の教育だろう。そして、自分たちはどうでもいい存在とまでは言わなくても、本当におまけなのだと昔から知っている以上、何も言えない。
 ディアッカは苦笑と共にそう付け加えた。
「だが、そこまではっきりとしているとこちらとしては対処が取りやすいのではないか?」
 だからといって自分たちのことをないがしろにしているわけではない。相談を持ちかければ、きちんと答えてくれるし……とイザークも納得したように口にする。
「ともかく、私以上にキラ不足だからな、あの人は」
 早々に顔を見せた方がいいだろう。カガリはそう言って笑う。
「それは危険だ」
「と言うことで移動をするか」
 言葉とともにアスランがキラへと手を差し出す。
「アスラン……相手が違う」
 小さなため息とともにキラがこう言い返した。
「あら、構いませんわ。今回だけは」
 コロコロとラクスが笑いを漏らす。そして、そのまま自分の腕をキラのそれにからめる。
「ずるいぞ、ラクス!」
 カガリの叫び声が周囲に響き渡った。