キラの無事な様子を確認した瞬間、カナードの肩から力が抜けた。
「よかった」
 呟きと共に、今度は注意をラウへと向ける。そうすれば、少しだけとはいえ、彼がやつれているのがわかった。
「ラウ兄さんが頑張ってくれたんだな、やはり」
 彼がキラの側にいてくれてよかった。
 それと同時に、ラクス達がいるなら彼の負担もかなり減るだろう。
「これから、兄さんの能力がもっと必要とされるかもしれないからな」
 交渉ごととなると、自分たちでは役者不足だ。だが、ラウであれば、きっちりとサハクの双子のフォローをしてくれるだろう。
 うまくいけば、二度とキラに手出しさせないですむかもしれない。
 もっとも、それは難しいだろうが……と小さなため息をつく。
「それよりも、ラクス・クラインと今後のことを相談した方が早いだろうな」
 彼女であれば、持てる権限を全て使ってキラを守ってくれる。ついでに、その親たちにも多大な影響力――たんに、弱みを握っているだけ、と言う説もある――を持っているのだ。間違いなく、プラント側の暴走を抑えてくれるのではないか。
「何を相談するんだ?」
 小さな笑いと共にムウが問いかけてくる。
「……某最高評議会議長殿に対する報復の方法……」
 それに、即座にこう言い返した。
「全然『某』になってないぞ」
 まったく、と言い返してくるムウは、どこか楽しそうだ。
「そういうことなら、ついでにヘリオポリスの嬢ちゃんも巻き込むか?」
 そして、こう言葉を重ねてくる。
「……フレイ・アルスター?」
「あぁ。メールボックスを確認したら連絡が入ってたぞ」
 あちらもあちらで、あれこれ画策しているらしい。どうせなら、一斉にやった方が牽制にはいいのではないか。ムウはそう続けた。
「それに……オコサマ達の暴走を止められるだろうしな」
 限度を知らない可能性が高い。だから、適当なところで止めてやるのも大人の役目だろう。その言葉はもっともだ。
「そうですね」
 確かに、立ち止まるべき場所を間違えれば、今度は彼等が危険になる。
「だろう?」
 ついでに、とムウは付け加える。
「あの二人が直接情報交換してくれると、かなり楽だと思わないか?」
 キラに悟られずに色々出来るのではないか。
「少なくとも、不審なことが起きていないかどうかはつかめますね」
「だろう? フレイ嬢ちゃんも今回のことで考えることがあったみたいだしな」
 もっとも、悪いのは彼女ではなく彼女の父だ。だから、今回のことで彼女がキラに気兼ねをするようなことはないようにさせないといけないだろう。そう彼は続ける。
「それで一番悲しむのは、キラだからな」
 でなければ、放っておくんだが……と言う彼に、カナードは苦笑を返す。
「確かに、そうかもしれませんね」
 それでも、と彼は言葉を重ねた。
「キラの側に置いておくには彼女ほどふさわしい人間は、現在の所、他にいませんから」
 害虫駆除という点で、と言わなくてもムウには伝わるはず。
「まぁ、な」
 確かに、あそこまで押しの強い人物は必要だろう。彼女が側にいることで、バカが近寄れないらしいと他のメンバーからも聞いているのだ。
「いっそのこと、ラクス嬢とカガリ、それにフレイを合わせてみたいですね」
 真ん中にキラを置いておけば、ケンカをすることはないだろう。
「そのまま、協力体制を築かせると?」
「いいアイディアだと思いますが?」
 少なくとも、それぞれが役割分担をしてくれれば、バカの情報も掴みやすい。そうカナードが付け加えたときだ。
『そこまでにしておいて欲しいものだね』
 唇の動きから自分たちの会話の内容を読み取ったのか。ラウがため息混じりに声をかけてくる。
「ラウ兄さん……」
「そういうなって」
 慌てて二人は言葉を返す。
「全部、お前達が無事にこちらに戻ってからだ」
 そうだろう、とムウは彼に向かって笑いかける。
「ですね。キラを抱きしめたい心境ですから」
 いい加減、キラ不足が最悪な状況になりつつあるから……とカナードは付け加えた。
「もっとも、俺よりも重傷なのがいますけどね」
 ひょっとして、ユウナがあそこまで重傷になったのは、そのせいではないか。もっとも、それに関しては彼等が戻ってきてから報告すればいいだけのことだ。
『カガリかな?』
 何事もなければ、すぐに戻れるよ。ラウはこう言い返してくる。
『その時までに、キラの好きなケーキを用意しておいてくれるかね?』
 君なら作れるだろう、と名指しされたのは、もちろんカナードだ。
「わかりました」
 確かに、何もしないでいらついているよりも何かしている方が有意義だろう。何よりもキラが喜んでくれる。
「ラクス嬢の分も含めて用意しておきますよ」
 この言葉に、ラウは満足そうに頷いて見せた。