許されるなら、この手で八つ裂きにしてやりたい。そう思いながら、カガリはさらに言葉を重ねた。
「キラは人形じゃない! 大切な、私の従姉妹だ!」
 今すぐその発言を撤回しろ! と口にしながら、ユウナの方に一歩踏み出す。
「それとも、お前はオーブにいる全てのコーディネイターの存在をそう考えていたのか?」
 なら、今すぐオーブから出て行け、とも付け加える。
 しかし、ユウナはさらに彼女を激昂させるようなセリフを口にしてくれた。
「あれは、最初からボク達に奉仕をするために生を受けた存在だって、パパがいていたよ」
 人の胎内から生まれていないのであれば、ロボットや機械と同じではないか。そうも彼は続ける。
「アスハもそう考えているから、あの厄介者を引き受けていたんじゃないの?」
「誰が厄介者だ!」
 ユウナの言葉をこれ以上聞きたくなくて、カガリは叫ぶ。
「アスハはそんなことを考えたことはない! キラが望むなら、プラントへの移住も認めるつもりだった」
 実際、プラントからそんな申し出も来ていた。
 しかし、キラがそれを望まなかったのだ。
「第一、そんなことならヘリオポリスに行くことを許すか!」
 手元に置いておいた方があれこれしやすい。もっともする気もないが、とそう続けた。
「第一、何なんだ? お前の言っていることの意味がわからない」
 キラが人の胎内から生まれていない、とはいったいどういう意味なのか。そうも聞き返す。
「……ユーレン・ヒビキ」
 にやり、と笑いながらユウナは一つの名前を口にする。
「それがどうかしたのか?」
 カガリが口を開くよりも早くカナードが口を開いた。
「確かに。かなり事実誤認が含まれているな」
 さらに、ギナもだ。その声音に怒りが滲んでいることに気付かないのは、間違いなくユウナだけだろう。
「何が! あれは人工子宮から生まれたって、パパが!」
「それ以上何か言ってみろ! それはキラだけではなく、私に対する誹謗中傷と見なすからな!!」
 ユウナの言葉を遮るようにカガリが叫ぶ。
「あいつは、私の双子の妹だぞ!」
 それなのに、勝手なことを言うな! とさらに付け加える。
「……双子?」
 この事実は知らなかったのか。ユウナは呆然とカガリを見つめてきた。
「そうだ」
 だから、キラが人工子宮から生まれたとするなら、それには自分も関わっているのではないか。逆に言えば、キラがそういう状況になったのは自分のせいだと言うことになる。
「だから、誰かがキラに危害を加えようというなら……私は全力で阻止するまでだ」
 相手がセイランだろうと地球軍だろうと容赦はしない。持てる力を全部使ってやる。そこまで言い切った。
「そもそも、間違った情報を信じ込んでいるから話がおかしくなるんだ」
 捏造された情報を自分たちにとって都合がいいように変換をするから厄介なんだ、とカナードが吐き捨てる。
「あの子が母体から取り出されたのは、そのままでは二人とも命が失われるかもしれない、と判断されたからだ。その後、専用の保育器に移された」
 それに関してはオーブだけではなく地球連合でも未熟児の救命のために広く使われているだろうが、とギナが吐き捨てるように口にした。
「お前は、それで命をつないだ子供達も同じように『人形だ』と言うつもりか?」
 だとするなら、それこそオーブの立場を悪くすることになるだろう。彼はそう付け加える。
「お前も五氏族の一員だというのであれば、もう少し考えて言葉を口にしろ!」
 それが出来ないなら、黙っているんだな……と付け加えたところで、ギナはふっとあることに気が付いたという表情を作った。
「いっそのこと、話せないようにしてやろうか」
 そうすれば、二度とユウナの世迷い言を聞かなくてすむ。オーブにしても誰かの失言を心配する必要がなくなっていいのではないか。そんなことも彼は口にした。
「それはいいかもしれませんね」
 カナードも頷いてみせる。
「本音を言えば、あのまま、戦場に放置しておきたいところでしたが……」
「それはそれで厄介な状況になっただろうな」
 自分も同じ気持ちだったが、ミナとムウの判断は無視できない。そういってギナはため息をつく。
「まぁ、いい」
 このまま、ここに放置をするか……いっそのこと、カーゴに乗せて、牽引をするか。どちらがいいだろうな、と彼は視線をカガリに向けてきた。
「その前に、一発ぐらい殴っても構いませんか?」
 即座にカガリはこう問いかける。本音を言えば、半殺しにしても飽き足らない。だが、今回のことの責任をとらせる必要がある以上、我慢しなければいけないだろう。
「……死なない程度なら、構わないぞ」
 何。救助する前にケガをしていたことにすればいい。ギナはそう言って笑う。
「確かに。女のお前に半殺しにされたなんて、言えるはずがないしな」
 カナードも、それに頷いてみせる。
「じゃ、遠慮なく」
 言葉とともに拳を鳴らし始めた。
「……カ、カガリィ……」
 ユウナの表情が強ばる。
「歯を食いしばれよ?」
 にやりと笑うと、カガリは腕を振り上げた。