だが、キラの考えは間違っていなかったらしい。 「カトー教授が?」 キラの話を聞いた瞬間、ラウは思いきり顔をしかめた。 「そうか……」 それだけではなく、何やら考え込むような表情を作る。 「……兄さん?」 ひょっとして、彼は何かを知っているのだろうか。それとも、と思いながらキラはそっと呼びかける。 「不本意だが、マルキオさまにお願いして、手を回してもらわなければいけないかもしれないね」 その手の情報がこちらにも入るように、と彼は続けた。 「兄さん……」 そこまでしなくて、とキラは思う。しかし、自分は全てを知らされていない、と言うことも事実だ。それはきっと、自分が、まだまだ未熟だからだろう。 それに関しては文句を言えない。自分の力量不足のせいで兄たちの足を引っ張る事になったら、それこそ厄介な状態を引き起こすことは目に見えていた。しかし、兄たちレベルの実力を身につけられるのはいつの日になるだろうか。 「心配するな。私の気のせいかもしれないからな」 それでも、カトーゼミをわざわざ訪れたというのが気になる……と彼は続ける。 「ただの研究資金に関する話ならばいいのだが……そうでなければ、厄介なことになる」 キラ達が関わっている研究は、悪用しようとすればいくらでも悪用できるものだ。 特に、と彼は言葉を重ねる。 「プラントで新型の兵器が開発されたらしい。それを使われたら、おそらく、今の世界のバランスは崩れるだろうな」 そうなった場合、ここも戦闘とは無縁ではいられないのではないか。 「そうならないことを祈っているが……」 しかし、三人の中で一番世界のことを知っていると思われるラウがこう言うのであれば、その可能性が高いと言うことだろう。 「……兄さん……」 だが、そうなったら、自分はどうすればいいのだろうか。 こう考えるだけで不安がわき上がってくる。それはきっと、ヘリオポリスに落ち着くまでに体験させられたあれこれが原因なのだろうが。 「キラ」 そう考えていればラウが微苦笑と共に呼びかけてくる。 視線を向ければ、彼が軽く両手を広げている姿が確認できた。 「おいで」 そのまま、彼はこう囁いてくる。 「……兄さん」 彼のその態度が何を意味しているのかは、キラにも十分にわかっている。しかし、いくらなんでもこの年齢になってからは恥ずかしいのだが。そう思っても、ついつい行動に移してしまうのは、やはり自分が兄たちに甘えているからなのだろうか。 そんなことを考えながらも、キラは素直に彼のひざの上に移動をする。 「不安にさせてしまったね。すまない」 大丈夫だよ、と小さな子供にするように彼は背中を叩く。 「そうなる前に、私たちが何とかする」 いや、自分が動かなくても他の二人が無条件で動くだろう。そういって彼は微笑む。 「だから、君は普通に学校に通って、友達と過ごしていなさい」 これは、きっと、彼なりの優しさなのだろう。 「やだ……」 それに、思わずキラはこう言い返してしまった。 「キラ?」 「僕だけ、仲間はずれなのは、やだ……確かに、僕じゃ足手まといかもしれないけど……でも、出来ることだってあるよね?」 だから、とキラは続ける。 「わかっているよ、キラ。それでも、私たちが君には今のままでいて欲しいんだよ」 自分たちのワガママだとわかっていても、と彼は苦笑を深めた。 「君の存在が、私たちにとっては大きな支えなのだからね」 何もしていないわけではない。そういわれても、何かが引っかかる。 「……わかった……」 それでも、兄たちが自分にそれを望むのであれば、今はそれを受け入れるべきではないか。きっと、必要なときが来れば教えてくれるはずだし。 そう考えて、キラは小さく頷いてみせた。 そのころ、ムウとカナードは宇宙港にいた。ここで、ジャンク屋の面々と落ち合う予定だったのだ。 しかし、既に約束の時間が過ぎているのに、彼等の姿は見えない。 「……何かが起きているのかもしれないな……」 彼等にとって『約束を守る』事は死活問題でもある。それなのに、この状況で姿を見せないのには、きっと、何かあったからに違いない。 そう、ムウは口にする。 「でしょうね」 それにはカナードも同意だ。 「問題は、何が起きているのか、です」 オーブはジャンク屋ギルドとは緊密な関係を築いてきていた。だから、彼等の入稿を拒むはずがない。それなのにどうして、と眉を寄せた。 「ここでは動きようがないな」 かといって、ラウに連絡を取るわけにもいかないだろう。彼はため息とともに言葉をはき出す。 「きっと、キラが帰ってきていますからね」 あの子に心配をかけたくない。そう告げれば、ムウも即座に同意をしてくれる。 「ともかく、もうしばらく待ってみよう」 その間に、誰かが顔を出すかもしれない。その言葉は希望だろうか。 「ですね。情報収集もしておきますよ、その間に」 少しでも、事態を掴んでおきたい。 「任せる」 自分では無理だからな、と苦笑を浮かべる彼にカナードは笑い返した。 |