そのころ、カガリはアマノトリフネへと合流していた。
「……おじさまは、ヘリオポリスから動けない、と言うことで私が来た」
 ユウナを連れて帰るぐらいなら自分でも出来るだろう。言外にそう告げる。
「その時は、ソウキスの誰かをつけてやろう」
 あれらは命じられたことは確実に遂行するからな、とロンド・ミナも頷いて見せた。
「もっとも、それは今しばらく待って貰わんとな」
 ふっと彼女は楽しげな表情を作る。
「何かあったのですか?」
 彼女にしては珍しい。ないわけではないのだ。
 その多くはキラが関わっているときだと言っていい。しかし、今はそうではないだろう。
 では、何なのか。
 そう思って、こう問いかける。
「ラクス・クラインがキラ達と合流したそうだ」
 おそらく、キラを守ってこちらまで足を運んでくるだろう。そうロンド・ミナは言い返してくる。
「それは楽しい結果になりそうですね」
 ラクスであれば、そもそもの原因を知った瞬間、本気で怒るだろう。そして、彼女の口撃 は他の者の追随を許さない。しかも、正論だけだから、相手が精神的に追いつめられたとしても反論の糸口すら見いだせないことが多いのだ。
「あいつも、少しは学習すればいいんだ」
 そうすれば、少なくともキラに手を出そうなどとは考えないはず。
 自分に関しては、いくらでも交わす方法がある。しかし、キラは立場上、それが難しい。だからこそ、ヘリオポリスにいたのだ。
 それでも、こんなことをしでかしたのはどうしてなのだろうか。確かめたいと思う。だが、それ以上にやりたいことがある。
「とりあえず、あのバカの顔を見に行っても構いませんか?」
 ついでに、一発ぐらい殴っても、誰も何も言わないだろう。そう心の中で付け加える。
「あぁ。ギナが見張っているからな。構わないだろう」
 ユウナがカガリに危害を加えようとしてもその前に静止するはずだ。
「必要なら、カナードも同席させる……と火に油か。なら、ムウか?」
 だが、そうすると、自分が困るか。こう言って、彼女は考え込むような表情を作った。
「ギナとカナードが同席してくれるのであれば……後、ソウキスの誰かを同席させてくれればいい。彼等であれば、カナードを止めてくれるだろう」
 ギナに関しては、多少手を出そうが何をしようが、セイランから文句を言われることはない。だから、放っておいても大丈夫ではないか。
「確かに」
 ギナなら、殺さない限り大丈夫か……とミナは笑う。
「それに、ベッドに縛り付けておいた方が静かでいいだろうな」
 その間に、全てを終わらせてしまえばいい。
「確かに」
 あるいは、そのためにホムラはこの地に自分を寄越したのだろうか。そんなことも考えるカガリだった。

 しかし、バカはどこまで行ってもバカだったらしい。

「カガリィ!」
 ギナ達と共に顔を見せた彼女に向かって、ユウナが飛びついてこようとする。もちろん、カガリは丁寧に避けさせて頂いた。その結果、彼が壁に激突したとしても自分のあずかり知らぬ所だ、とカガリは考えている。
「酷いよ、カガリ」
 憮然とした表情で彼は視線を向けてくる。少しも懲りていない、というのはその仕草からでも十分に伝わってくる。
「何が酷いんだ?」
 カガリは逆に聞き返す。
「お前のしたことのせいで、どれだけの人間が迷惑を被った、と思っている」
 カレッジは未だに講義が再開されていない。
 その影響は学生達だけではなく、モルゲンレーテの方にも出始めている。
「その後始末すらしないで、ふらふらと逃げ出した人間を無視して、何が酷いんだ?」
 何よりも、とカガリはさらに言葉を重ねた。
「お前がきっかけで、戦争が起きそうだったのに、な」
 そうなった場合、非難を受けるのはオーブだ。
「いったい、どうやって責任をとるつもりだったんだ?」
 オーブは中立。それなのに、戦争のきっかけを作ってしまったことに関して……とカガリは問いかけた。
「そんなの……ボクだけが悪いわけじゃないだろう?」
 戦争をしたがっている者がいるから、そういうことになるのではないか。
 こういうユウナに、カガリのただでさえ短い堪忍袋の緒に切れ目が入る始める。
「……そうか。それがセイランの主張、と言うことだな」
 覚えておく、とそう呟く。
「カガリ!」
「そういうことなら、アスハの主張と相容れない。そういう人間を婿にする気はない、とお父様には言っておかないとな」
 その位なら、まだギナと結婚をした方がマシだ。そうとまで付け加えてしまった。
「……残念だが、私としては君よりもキラの方を嫁に欲しいね」
 小さな笑いと共にギナがこう言い返してくる。
「……残念だが、キラの夫はあいつの意志を優先に決めさせて貰おう」
 大切な存在だから、絶対に幸せになれる相手でなければ認められない。
「あぁ……貴様が悪いという理由にもう一つ加えられるな」
 キラを危険にさらした。言葉とともにカガリはユウナをにらみつける。
「別にいいじゃん。あれは、ただの人形だろう?」
 確かに優秀だけど……とユウナは嫌な笑いを浮かべた。
「貴様! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」
 許せない。その思いのまま、カガリはこう叫んだ。