見ていて微笑ましい、と思ってはいけないのだろうが……とラクスは心の中で呟く。シンの態度は好ましいと感じられる。
 ただ、と彼女は心の中で呟く。
 問題があるとすれば、彼の後見人があのデュランダルと言うことかもしれない。
「……キラ」
 だが、それも解消できない問題ではない。何よりも重要なのは、と思いながら視線を向ける。
「何?」
 小首をかしげながら、彼女は言葉を返してきた。その様子は本当に幼い頃と変わらない。
「あのお二人とキラは、どのような関係ですの?」
 見ていて和む、と思いつつこう問いかけた。
「ゼミの後輩、になるのかな?」
 留学をしてきたときから、自分が面倒を見ている。キラはそう言い返してきた。
「人見知りのあなたが、ですか?」
 信じられない、と言っては失礼になるのだろうか。しかし、自分が記憶しているキラは、見知らぬ人間に近寄れないほど、激しい人見知りだったはず。
 それをラウ達が治そうとさせなかった理由も、今は知っている。
「教授に頼まれたし……それに、側にいられても、いやじゃないって思えたから」
 一応断ったんだけどね、と彼女は苦笑を浮かべた。
「多分、すぐには仲良くなれないとわかっていたし」
 それでも引き受けたのは、教授に推しきられたからだ。
「でも、悪い子達じゃなかったし……一緒にいてもいやじゃなかったから」
 これが彼等を気遣っての言葉ではないことは、その表情からも伝わってくる。
「確かに。保護者があれでなければ、と思うこともあるよ」
 苦笑と共にラウも同意の言葉を口にした。
「残念なことに、私と彼はウマが合わないようだからね」
 自分でそうであれば、ムウやカナードはなおさらではないか。そう彼は続ける。
「……そうですか」
 そういうことならば、キラの側をうろちょろしても、とりあえず妥協するしかないのだろうか。もっとも、とラクスは心の中で呟く。彼女にとってマイナスになると判断したなら、即座に遠ざけてやろう、と決意する。
「なら、しかたがありませんわね」
 自分たちの間を邪魔しない、と言うのであればエターナルへ同行することも認めよう。
「……その位は妥協すべき、だろうな」
 アスランも頷いてみせる。
「もっとも、許可が出れば、だが」
 キラ達に関しては、自分たちの判断で移動して貰って構わない。しかし、二人に関してはデュランダルの保護下にあるのだから……と彼は続けた。
「それなら、キラさんだって……」
「キラの保護者はラウさんだろう?」
 シンの言葉をディアッカがあっさりと遮る。
「何よりも、二人はオーブの人間だ。いくら最高評議会議長だとは言っても、その意志を無視することは許されないはずだが?」
 さらにイザークもこう言ってくれた。
「でも!」
「お前……あまりワガママばかり言っているとキラに嫌われるぞ」
 なおも何かを言おうとするシンの肩にディアッカは手を置く。
「……それは、困る……」
 キラの側にいられなくなるのは、とシンは唇を噛んだ。
「シン君」
 そんな彼に向かって、キラが何か声をかけようとしているのが見える。しかし、視線だけでラウが何かを伝えれば、小さく頷いて口をつぐんだ。
「ですが、この艦の目的はサハクの首長との会談だと聞いています。キラさん達もそちらに同行して頂いた方がいいのではありませんか?」
 代わり、と言うようにレイが口を開く。
「それでは、時間がかかりすぎますわ」
 自分たちと一緒であれば、真っ直ぐにヘリオポリスに戻れるのに、とラクスは言い返す。
「……ただ戻るだけではダメだと思いますが?」
 それでは、また同じ状況になる可能性もある。その対策を考えなければいけないのではないか。
 レイはさらに言葉を重ねてきた。
 その内容には頷けないわけではない。
 しかし、とラクスは言い返す。
「あの地にはカガリとホムラ様がおられますわ。サハクの方々ではなくても、十分に対策は取れるのではありませんの?」
 なら、キラを直接、ヘリオポリスに連れ帰っても構わないのではないか。そうも付け加えた。
「それよりも、わたくしとしてはキラがここにいたことをオーブに正式に連絡をしていないことのほうが気になりますけど?」
 それに関して、デュランダルに追及していいのか。逆にそう聞き返す。
「地球軍の艦艇が近くにいる状況で、迂闊に連絡を取ることは危険ではないでしょうか」
 だが、レイは冷静にこう言い返してくる。
 シンはともかく、彼は危険だ。
 ラクスはそう思う。
「……それでも、サハクの方々とは打ち合わせをしておいででしょう?」
 デュランダルの前に、彼を屈服させなければいけないのではないか。そう考えた瞬間、ラクスの中でスイッチが入る。
「ラクス……」
 周囲の者達が少しひいていることには気付いていた。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。その気持ちのまま、さらに言葉を続ける。
「なら、その時に報告をなさらなかったのはどうしてですの?」
 そうしていれば、オーブの援助が得られたかもしれない。
 この言葉に、レイは何と反論をすべきか考えているようだった。