「シン君?」
 キラが不安そうに呼びかけてくる。
「ダメです! キラさんは、俺たちが守るって……そう約束したんだ!」
 さらにシンはこう付け加えた。それが自分のワガママだと言うことも、もちろんわかっている。それでも、あふれ出す言葉を止められない。
「キラさんは……!」
 今の様子から判断をして、彼等とキラは知り合いなのだろう。
 ひょっとしたら、自分といるよりも彼等と一緒にいた方がキラにとってはいいのかもしれない。
 しかし、それならば、自分の気持ちはどうすればいいのか。
「落ち着け、シン」
 そんな彼の耳に、相棒の声が届く。
「そうは言うけど……」
「キラさんが行くというなら、俺たちも付いていけばいいだけだろう?」
 その位、ラクスも『否』と言わないだろう。こう言いながら、彼は視線をラクス達に向ける。それがどこか挑発的に思えたのはシンの錯覚ではないはずだ。
「キラがいいと言いましたらね」
 ラクスは微笑みながらこう言い返してくる。
「それよりも、今は、座らない?」
 許可をもらうにしても、しばらく時間がかかるだろう。それまで立ちっぱなしでいるのか……とキラがおずおずと口を挟んでくる。
「そうだな。キラの体調を考えれば、座っていた方がいいかもしれない」
 それにラウも同意をした。
「キラ!」
 だが、それが別の意味でラクスの怒りに火をつけたらしい。
「やはり、体調を崩されていたのですね?」
「……大丈夫だよ」
 ラウが過保護なだけ、とキラは慌てて口にする。しかし、それをラクスが聞き入れる様子はない。
「キラの大丈夫は信用できないからな」
 さらに、アスランもこう言ってくる。
「それで何度振り回されたことか」
 さらにため息をつく彼に、キラは頬をふくらませた。
「かってに首をつっこんできたのは、アスランの方でしょ?」
 それにキラはこう言い返す。
「俺が首をつっこまなければ、キラはいつまでも課題を出さなかっただろうが」
 だが、アスランは負けじと言葉を口にする。しかも、周囲の者達が頷いていると言うことは、彼の言葉の方が正しいのだろう。
「……ずいぶんと仲がいいんだな……」
 気に入らない、とシンは心の中で付け加える。キラのあんな表情は、ラボの仲間達と話しているときでもなかなか見られない。辛うじて、女性陣といるときだけ、何度か目にすることが出来たような気がする。
「当たり前だろう? あいつは本当に幼い頃から側にいたからな」
 残念だが、そういう意味では自分たちはかなわない。そう声をかけてきたのはディアッカだ。
「まぁ、それでもカナードさんには今ひとつ信頼されていないようだが」
「そう言った点では、ラクス嬢が最強だろうな」
 カナードからの信頼、と言う点では、自分たちの中で彼女に並ぶ者はいない。逆に言えば、彼女さえ味方につけられれば無敵と言うことではないだろうか。
「でなければ、うちの母あたりが強引にキラを本国へ連れ帰っていただろうな」
 周囲が男ばかりだから、キラのあの性格がお気に入りなんだ……とイザークは続ける。
「そのような状況になれば、本気で阻止させて貰っていただろうがね」
 最悪、ザフトと本気で戦闘状態になったかもしれないね……とものすごく怖いセリフをさらりと言われてどう反応をすればいいのだろうか。
「わかっています。だから、キラの側にいたかったのですが……」
 親の反対にあっては難しかった。悔しげにイザークは付け加えた。
「だよなぁ。しかも、気が付いたらザフトに放り込まれているし」
 その間に、何かしっかりとキラの側に場所をしめている連中もいるし……とちょっと悔しげな視線をディアッカはシン達に向けてきた。
「……文句、あるんですか?」
 即座にシンはこう言い返す。
「いや。別に」
 自分たちの方がキラの中で大きな場所をしめている自信があるからな。こう言って笑う彼も気に入らない。
「それはただの思いこみじゃないかよ」
 ぼそっと、シンはこう呟く。
「ラクスさまだって、あいつにはかなわないかもしれないし」
 存在が今ひとつ気に入らないが、それでもこの状況で自分の味方をしてくれそうな――と言うよりも、共闘できるといった方がいいか――相手の顔を思い浮かべながら付け加えた。
「それはそれで怖いような気がするぞ」
 逆に、あの二人が手を結んだら、自分たちでは太刀打ちが出来ない。レイがため息とともに指摘をしてくる。
「……だったら、この状況を黙ってみていろって言うのか?」
 自分たちだって、キラの側にいたいんだ!
 それがシンの偽らざる本心だった。