「お久しぶりですわね」
 柔らかな笑みを浮かべているその姿はまさしく《平和の歌姫》にふさわしい。しかし、その中身はどうなのだろうか。デュランダルは心の中でそう付け加える。
 もちろん、それを態度に表すことはない。
「そうですね」
 代わりに、いつものように笑みを浮かべて言葉を返す。
「まさか、このような場でラクスさまにお会いするとは思いませんでしたよ」
 それでもイヤミの一つはぶつけたい。
 自分の許可を得ずに勝手なことを、と言外に滲ませる。しかし、その程度でひるむような相手ではない。
「わたくしもですわ。和平のための会談にお出かけになったとお聞きしていましたのに」
 まさか、こんなところで戦闘を繰り広げているとは思わなかった。そう彼女は切り返してくる。
「ザラのおじさまやアマルフィのおじさま方から、念のために……と言われてアスラン達を連れてきてよかったですわ」
 いくらバルトフェルドでもエターナルだけではどうしようもなかったでしょうから。柔らかな笑みでそう付け加える。
「確かに。皆様の過保護ぶりのおかげで助かりましたね」
「独断専行よりはよろしいのではないかと」
 本当に、人は見かけによらない。
 実は、プラントで一番怖い相手は彼女なのではないだろうか。
「それよりも……この艦にわたくしの友人が乗っているはずなのですが、会わせて頂いて構いませんか?」
 本当に久々ですの、とラクスは無邪気な口調で言葉を綴る。
「それは構いませんが……軍人ですと、みな、後始末に追われているかと」
 その程度のことがわからないのか。言外にそう言い返す。しかし、ラクスは微笑みを消すことはない。
「いえ。軍人ではありませんわ」
 民間人ですの、と彼女はさらに笑みを深める。
「残念ですが、民間人は……」
 この艦には乗艦していない。そう言い返そうとした。
「乗っておられますでしょう? オーブの方がお二人」
 しかし、それよりも早く、彼女はこう言い切る。
「お二人とも、わたくしの大切な方ですの」
 この艦に乗っていることは、先ほど、確認した。そうも彼女は付け加える。
 その言葉に『いったい誰が』と一瞬、怒りがわき上がってきた。しかし、とデュランダルはすぐに思い直す。《ザフトの歌姫》に逆らえるような人間がザフト内にいるだろうか。まして、彼女の周囲をアスラン他有力者の息子達が囲んでいるのだ。
「そうですね。自分にとっても、大切な幼なじみです。この艦に乗り込んでいるなら、是非とも顔を見たいですね」
「って言うか……久々だから、ゆっくりと話をしたいよな?」
「母上も心配しておられたからな」
 さらに他の三人も口々にこう告げる。
 これでは、情報を漏らした者達を罰するわけにはいかない。ラクスだけではなく、彼等三人まで関わっているのであれば、最高評議会議員でもなければ拒むことは難しいだろう。軍務に関わることでなければなおさらだ。
「……しかたがありませんな……」
 だが、とすぐに思い直す。
 彼等とキラが知り合いだ、と言うのであれば、彼女をプラントに連れて行きたいと考えているのではないか。
 だとするなら、彼女を説得してくれるかもしれない。
「案内させましょう」
 そんな打算と共に、こう告げる。
「ただ、キラ嬢は少し体調を崩しておりますから……保護者殿に追い返されるかもしれませんよ?」
 ラウであれば、その可能性は十分にありそうだ。その時、彼女はどうするだろうか。
「あり得ませんわ」
 しかし、ラクスは自信満々の様子でこう言い切る。
「わたくしがキラを傷つけることはありませんもの。それを皆様、ご存じのはずです」
 そして、キラも自分を頼りにしてくれていた。弱っているときなら、なおさら、自分にあってくれるはずだ。そう主張をする。
「それに、わたくしとキラは同性ですもの」
 兄たちに話せないことでも、自分には話してくれるかもしれない。その言葉にはデュランダルも頷かずにはいかない。
「……誰か……レイを呼んでくれるかな?」
 だからといって、喜々として許可を与えるわけにはいかないだろう。あくまでも、渋々許可を出すのだ、と言う態度を崩さずに、デュランダルは側にいた兵士に声をかける。
「ひょっとして、レイ様達が留学をしていたのは、キラと同じカレッジですの?」
 いったい、何を考えていたのか……とラクスはあきれたように口にした。
「偶然ですよ、ラクスさま」
 決して、キラがいたからではない。あくまでも、彼等が希望したからだ……とデュランダルは言い返す。
「どこまで信じてよろしいのでしょうね」
 本人に確認させて頂きますわ、とラクスは口にする。
「そうだね。どうしてここに保護されているのか、確認したい」
 アスランもそんな彼女に同意をして見せた。
「だよなぁ。俺たちだって、遠慮していたのに」
「それ以上に、親だがな」
 いつでもキラの顔を見たいと言っていたのだが、自分の立場を考えて我慢していたというのに……とディアッカとイザークも頷いている。それなのに、抜け駆けをするとは……間違いなく、彼等の恨みを買ったな……とそう付け加えていた。
 それを耳にした周囲の者達に妙な空気が広がったのは、プラントに戻ってからの二人の境遇を想像したからだろう。
 自分にしても、それだけ彼等を守れるか。
 不安になってしまうデュランダルだった。