「キラ、大丈夫かしら」
 まだ工事中の校内を見つめながら、フレイがこう呟く。
「大丈夫だろう。ラウさんが一緒なんだから」
 即座にサイがこう言ってきた。
「それに……アスハとサハクも動いているらしいから……」
 これは内緒だぞ、と彼は即座に付け加える。と言うことは、顔見知りの《誰か》から聞いてきたと言うことだろう。
「……そう……」
 確かに、五氏族の中の二つが動いているのであれば安心かもしれない。しかし、それはどうしてなのだろうか。キラは普通の家の子だと思っていたのに、と心の中で付け加える。
「キラが、どこかに行っちゃうかもしれないなんて……」
 そんなこと、考えたこともないのに。だが、それが現実になるかもしれない、とそんな予感がするのはどうしてなのだろうか。
「フレイ?」
 どうして、そう思うのか。サイは言外にこう問いかけてくる。
「地球軍が、キラを追いかけ回すから……」
 そして、彼女の情報を地球軍に与えたのが自分の父親だったなんて……とフレイは呟く。
「そのおかげで、パパの足場が固まったなんて言われても、喜べるはずがないでしょう!」
 キラは、自分の友達なのだ。
「友達を売って偉くなっても……嬉しくないわ」
 別に偉くならなくてもいい。
 普通の暮らしでいいのだ。
「……パパがいて、友達がいてくれる。それだけで十分だったのに……そりゃ、綺麗な服もおいしい食べ物も好きよ? でも、それよりもキラの方が大切だったの」
 キラと一緒にいて、色々な話をするのが好きだった。
 自分のワガママを、少し困った表情をしながらも叶えてくれる彼女が好きだった。
 それなのに、とフレイは唇を噛む。
「あたしから、それを取り上げたのが……パパだったなんて……」
 今、自分が身に纏っている服も、アクセサリーも、その結果、手に入れることが出来たものだなんて……と考えるだけで、今すぐ捨てたくなる。
 しかし、そんなことをしても、キラは帰ってこないのだ。
「……あたしに、何が出来るの?」
 キラを守るために――いや、キラを取り戻すために、と言うべきか――と拳を握りしめる。
「それを、一緒に考えようか」
 サイが優しい声音でこう言ってくれた。
「トール達も巻き込んで、さ」
 でないと、連中も怒るぞ……と彼は続ける。
「そうかもしれないけど……」
 でも、自分たちになにができるのか。彼等も結局、ただの学生でしかない。
 いくら人数が多くなっても、それを変えることはできないのではないか。そんな自分たちに何が出来るのだろう、とそう思う。
「一人で悩むより、みんなで意見を出し合った方がいい考えがでるかもしれないだろう?」
 違うか、と彼は問いかけてくる。
「違わない……」
 確かに自分だけで考えていても答えが出ないときには、誰かの力を借りるのが一番だ。
 特に、友人達はみな、キラのことを心配している。だから、親身になってくれるだろう。
「……でも、カズイは呼ばないでくれる?」
 彼の後ろ向き発言を聞いたら爆発しそうだから。そう付け加える。
「わかったよ」
 苦笑と共にサイは頷いてくれた。あるいは彼も同じようなことを感じていたのかもしれない。
「とりあえず、トールとミリィに声をかけてくるから」
 それまで、あれこれ余計なことは考えないように……とサイは微笑む。
「フレイに何かあっても、キラは悲しむと思うぞ」
 だから、と彼は続けた。
「絶対に、お父さんに連絡を取るんじゃない。それよりも、キラが戻ってきたときに何をしてあげるか。それを考えてくれないか?」
 その方が楽しいだろう? と問いかけられて、フレイは素直に頷いてみせる。
 確かに、自分の父に怨嗟の言葉をはき続けるよりは、そちらの方が楽しい。何よりも、戻ってきたキラが喜んでくれるだろうと想像が出来るのだ。
「頼んだよ」
 言葉とともにサイは立ち上がる。そして、二人に連絡を取るために携帯をとりだした。
 すぐにどちらかがでたのだろう。即座に会話を開始する。
 その様子を見つめながら、フレイはいったい自分に何が出来るのかをまた考え始めた。
「……きっと、出来ることがあるもの……」
 まずはそれを見つけないと。そう呟く。
「また、キラと笑いながらお茶をしたいから……」
 だから、と彼女は唇を噛む。
「絶対に、キラを取り戻すの」
 それだけはゆらがない意志だ。後は、それを手放さないようにするだけだろう。フレイはそう考えていた。