どうしても、数の差は埋めきれないのか。
 撃墜された機体はないものの、次第に圧され始めている自軍の機体を見つめながら、デュランダルは唇を噛んだ。
「優秀な人材をここでみすみす失うわけにはいかないのだがね」
 かといって、降伏をするわけにもいかない。
 自分の身柄を敵に預けた場合、プラントの自由が失われる可能性もある。そのようなことは避けなければいけない。
「さて、どうすればいいのだろうね」
 何とかラウを引っ張り出すことを考えるべきか。彼であれば、この状況から無事に撤退するための方策を見いだしてくれるだろう。
 心の中でこう呟いたときだ。
「……増援、確認出来ました」
 信じられない、と言うように告げられた声が耳に届く。だが、それをとがめることは出来ない。
「増援?」
 いったい、どこの隊なのか。
 少なくとも、自分の記憶の中にある限り、そのようなことが出来る位置にいた艦はニコルの隊だけだ。
 それとも、その後に本国を出発したのか。
「どこの隊か、わかるかね?」
 それさえわかれば、判断できるのだが。そう思いながら問いかける。
「エターナルです」
 即座に言葉が返された。その声音に歓喜の色が滲んでいるような気がするのは錯覚ではないだろう。
「……エターナル、と言うと……」
「バルトフェルド隊長です」
 グラディスもほっとしたような表情を浮かべている。それは、きっと、彼が現在のザフトの中では一二を争うほど経験を積んでいる人物だから、だろう。
 しかし、その彼がどうしてここにいるのだろうか。
「あちらから、通信が入っています」
 回線をつなぎますか? と問いかけられる。
「お願いしよう」
 本人に確認するのが一番早い。そう判断をして、デュランダルは頷いた。
「回線をつなぎます」
 言葉とともに目の前のモニターにエターナルの環境が映し出される。しかし、そこにはバルトフェルドではなく予想もしていなかった姿があった。
「……ラクス・クライン……」
 何故、と思わずこう言い返してしまう。
『カガリ・ユラ・アスハから依頼されましたの。あの地で慰問のコンサートをして欲しいと』
 ついでに幼なじみに会いに来たのですわ。そう付け加える彼女の微笑みの裏に隠されている感情がなんなのか。わからないデュランダルではなかった。
『父をはじめとした皆様の許可はいただきましたわ』
 同時に、彼等はこの件に関して、自分の味方ではないことも、だ。
「そうですか」
 だが、彼女のコンサートに関しては本人の判断が優先される。それが平和に繋がるとわかっている以上、それを拒む出来ないのだ。
「それで、護衛はどなたが?」
『アスラン、ですわ。それとニコル合流させて欲しい、と言うアマルフィ議員の依頼もありまして、イザークとディアッカの二人も同行しておりましたの』
 だから、彼らが今、そちらに救援に向かっている。
「なるほど」
 彼等がここにいる理由はわかった。そして、それで自分たちの窮地が解消されそうなことも、だ。
 だが、それが終わった後、別の意味での窮地が訪れるのではないか。
 デュランダルはそんなことも考えていた。

 アマノトリフネに戻れば、ハッチにロンド・ギナが待っていた。
「……何だ? 気絶しているのか」
 未だにマニピュレーターに掴まれたままのユウナを見つめて、彼は冷笑を浮かべる。
「起きていたら、そのまま外に放り出してやろうと思っていたのに」
 彼はさらにこう付け加えた。
「まぁ、起きてからなら好きにしてくれ」
 苦労してここまで連れてきたんだ。殺すのはやめてくれるとありがたい。ムウはそう言い返す。
「本音を言えば、放っておきたかったけどな」
 流石に、難しいから拾ってきた。ため息とともにさらに言葉を重ねる。
「大丈夫だ。あれが近くまで来ている」
 ギナは楽しげな表情を作った。珍しいことに、今すぐ踊り出しそうなくらい機嫌がいいらしい。
「そうか」
 だとするなら、あちらはあちらで楽しいことになるだろうな。そう言って、ムウも頷く。
「……と言うと……」
「二人とも、あれに乗っている。ようやく確認できた」
 本来ならば、カナードととって帰ろうかと思っていた。しかし、彼女が到着したなら今しばらく傍観していてもいいのではないか。そうも付け加える。
「そちらの方が楽しい、と言うことにしておくか」
 頼めば見物させてくれるだろうからな……と告げるのは自分に言い聞かせているのだろうか。
「ともかく、あの二人が戻ってきたときに、少しでも休める環境を作っておいた方がいいだろうな」
 好感度もあがるかもしれない。こう言ったのは、今、ギナに飛び出されると困るからだ。
「そうしておこう」
 本人もそれを理解してるのか――あるいは、ミナにクギを刺されていたのかもしれない――苦笑を浮かべる。
「さて、これは、どうする?」
 そういいながら、彼はまたユウナへと視線を戻す。
「気が付くまで、このまま放置でいいんじゃないのか?」
 運ぶのも面倒くさい。
「……かってに動かないようにだけしておくか」
 ムウの言葉に、ギナは手の動きだけでソウキス達を呼び寄せる。そして、本当に楽しげに指示を出し始めた。