ブリッジの側にある貴賓室へとラウ達は移動をしていた。
「……いったい、何を考えているのか」
 いや。自分に何をさせようとしているのか、と言った方がいいのか。そう心の中で付け加える。
「兄さん……」
 キラが不安そうに体を寄せてきた。それはきっと、ここではブリッジの緊張が明確に伝わってくるから、だろう。
「どうやら、小競り合いのようだね」
 この空気では否定しても無駄だ。だから、とラウは言葉を口にする。
「何。大丈夫だよ。ここはまだ、オーブの支配宙域からそう離れていないはずだからね」
 酷い状況になる前に、きっと介入してくるはずだ。そういいながら微笑んでみせる。
「この艦に乗っておいでの方は、サハクの双子と会談をするために来られたそうだからね」
 きっと、彼等も側にいるはずだ。そうも付け加える。
「そう、だよね」
 さっき、ムウが側まで来ていたから、とキラは唇の動きだけで続けた。それは、間違いなくここにいるのが自分たちだけではないからだろう。
「あぁ、そうだ。だから、心配はいらない」
 もっとも、ロンド・ギナが参戦してきたら混乱必至だろうな、と心の中だけで付け加える。
「だから、大丈夫だよ」
 それに、といいながらラウは不意に部屋のある方向を指さした。
「おそらく、あの先に脱出艇が用意されているだろうからね。いざというときにはそれで逃げられるよ」
 自分が操縦できることはキラも知っているだろう? と問いかける。
「うん」
「君達を連れて戦場を離れるぐらいは何でもないことだよ」
 それに、きっと、自分たちが脱出をすればムウかカナードが救援に来るはずだ。そうなれば、一個小隊程度では自分たちに危害を加えられないはず。
 むしろ、そうなってくれた方が後々楽なのではないか。
 そんなことまで考えてしまう。
 もっとも、戦場の光景をキラに見せたくないという気持ちも否定しない。だから、強引に逃げ出すことはとりあえずやめておく。
「この状況が辛いようなら、眠っていなさい」
 キラに向かってそう囁いた。そのまま、そっとその体を腕の中に閉じ込める。
「大丈夫」
 しかし、キラはこう言って微笑みを作る。しかし、それは無理しているとわかってしまうものだ。
「キラ」
「何かあったときに、眠っていたらすぐに動けないでしょう?」
 それでも、こう言われては納得するしかない。
「無理だけはしないようにね」
 仕方なく、彼はこう告げる。それに、キラは小さく頷いてみせた。

 部屋の隅でレイが何か作業をしている。
「レイ?」
 何をしているんだ、と口にしながらシンは彼に歩み寄った。そうすれば、かぐわしい香りが鼻腔をくすぐる。
「お茶?」
「ここにある嗜好品は自由に使っていいと許可をもらってある」
 これならば、少しはキラの精神を休める役に立つのではないか。そういって彼は微笑んだ。
 同時に、どうして自分がそのことに気付かなかったのだろう。
 こう言うところが、気が利かないと言われる理由なのだろうか。だとするなら、気をつけないと……と思う。
「本当は、ココアの方がいいのだろうけどな」
 残念ながら、ここには用意されていない。そう続ける。
「ギルバートさんは飲まないから、だろう」
 自分たちがこれに乗り込むことは、予想外だったから……ではないか。
「そうだな」
 こう言いながら、レイは手慣れた仕草でお茶をつぎわけていく。
「運ぶのを手伝ってくれるか?」
 その手を止めないまま、彼はこう言ってきた。
「あぁ。その位は当然のことだろう」
 手伝いをするのは、シンの中では当たり前のこととして認識されている。だから、と素直にこういった。
「悪いな」
 それなのに、レイはすぐにこう言い返してくる。
「本当は、ブランデーでも落とすともう少し落ち着けるんだろうけどな」
 それとも、彼も気を紛らわそうとしているのか。
「アルコールはまずいだろう」
 明るい口調を作ってこう言い返す。
「そうだな」
 何かあったときにすぐ動けないのは困るか……と彼は口にする。
「っていうか……キラさんに嫌われるかもしれないだろう?」
「……その可能性は考えなかったな」
 後で確かめてみた方がいいのだろうか、と告げる彼は、いつもの彼に近い。
「そうした方がいいと思うぞ」
 だから、シンも笑いと共に頷き返した。