客が帰った後、カトーの機嫌は最悪に近かった。 もっとも、それはキラ達にはプラスに働いたが。いつもは日が落ちてもすぐに帰れない事が多いのに、今日は早々に追い出さてしまった。 空いた時間を潰すのに丁度いい、と言うわけではないが、いつものように喫茶店でお茶をしていたのだが、やはり割り切れない。 「……何だったんだろうね」 小さな声で、キラはこう呟く。 「そうね。珍しく本気で怒っていたものね、教授」 それも、自分たちのあれに、ではない。むしろ、あれを見た瞬間は、彼の瞳から険しさが消えていた。 「あのお客さんが、何か言ったのかな」 教授を怒らせるようなことを、とため息とともにキラは口にする。 「可能性はあるわね」 しかし、いったいそれは何なのだろうか。ミリアリアが目の前のモンブランにフォークを突き刺しながら呟く。 「あの教授、だからさ」 いったい、何が逆鱗に触れるのか、判断できない……とトールが苦笑と共に口にした。 「そうなんだよな」 講義の内容に関しては厳しい。しかし、それ以外はのんびりしていると言っていい彼が、あそこまで機嫌を損ねる理由がわからない。サイもこう言って頷く。 「……明日には、機嫌が直っていてくれるといいなぁ……」 でないと、どうなっていることか……とカズイが口にした。 「あれ、無事だといいんだけど……」 壊されてないよね、とさらにとんでもないことを口にしてくれる。 「あぁ、その心配が……」 「せっかく、あそこまで形にしたのに……」 即座にサイとトールが頭を抱えた。 「大丈夫だよ、きっと」 そんな彼等に向かってキラは静かに告げる。 「キラ?」 「大丈夫だよ。いくら怒っていても……僕たちの研究成果に八つ当たりをするような人じゃないでしょう、教授は」 壊すなら、自分たちの目の前でやるのではないか。そうも付け加えた。 「それはそれでいやだけど……知らないところで壊されているよりマシよね」 どこが悪かったのか、きちんと説明してくれるだろうし……とミリアリアも頷いてみせる。 「だよね。でないと、どこを修正すればいいのか、わからないし」 修正する場所さえわかれば、自分たちのどこが未熟だったのかがわかるから……とキラは口にした。 「女性陣はドライでいいね」 カズイがぐちぐちとこう告げる。 「ドライなのかな?」 「だって……直せばいいだけでしょ?」 キラとミリアリアは顔を見合わせながら口々にこんなセリフを口にした。 「……そういう問題じゃないんだよ……」 わからないのかなぁ、とサイまでもが言い返してくる。 「どういう問題なの?」 不意に、別の声が彼の後頭部にぶつけられた。 それが誰のものかは確認しなくてもわかる。しかし、それが別の問題を彼等の前に突きつけてきた。 「……フレイ……」 一番頬を引きつらせているのは、もちろん、サイだ。 「それって、あたしの頼みを忘れるくらい、重要だったのかしら?」 逆に、にっこりと微笑んでいるフレイが怖い。 「そういうわけじゃ……」 「なら、どうして、あたしをのけ者にするのよ!」 みんなでお茶をするときにはちゃんと連絡をして、と言ったでしょう! と彼女はサイに詰め寄っていく。 「……フレイ、落ち着いて……」 「それとも、あたしにメールをするのが面倒くさかったわけ?」 自分はサイにとってその程度の存在なのか、と彼女はさらに口にしている。このままでは頬にびんたぐらいしそうだ。 「フレイ」 苦笑と共にキラが彼女に呼びかけた。 「サイを許してあげて。僕も忘れていたんだし」 メールをするのを、とキラは苦笑と共に付け加える。 「……キラがそういうなら……」 しかたがないから許してあげる、とフレイは口にした。そのまま真っ直ぐにキラの方に駆け寄ってきた。 「でも、次はないんだから」 キラの隣に、当然のように腰を下ろしながら、こう言ってくる。その椅子を誰が用意をしたのかも、彼女には関係ないらしい。 「はいはい」 それでも、これがフレイだから、まだ許されるのだろうか。誰もが苦笑を浮かべつつ頷いている。 「ならいいわ」 あ、あたしもケーキセット! とフレイは元気よく店員に声をかけた。それも彼女らしいと思う。 それでも、とキラは心の中で呟く。 今日のことは兄たちの誰かに相談をしておいた方がいいのではないか。少なくとも、ラウは家にいてくれるはずだ。 しかし、どうしてそう思ったのか。キラ自身にもわからなかった。 |