同じ頃、同じ機影をアマノトリフネもとらえていた。 「ムウ」 その事実に、ロンド・ミナが視線を向けてくる。 「拾いに行ってこいって、言いたいんだろう?」 わかってるよ、と彼は肩をすくめた。 「ソウキスを借りるぞ」 そのまま、言葉を口にする。 「言ってある。自由に使え」 お前なら、あれに無理をさせないだろう。そういって彼女は目を細めた。 「あいつらも、生きているからな」 感情や何かは奪われていても、それでも思考は残されている。感情らしきものも芽生え始めているから、とムウは笑い返す。 「俺としては、素直に言うことを聞いてくれる連中は可愛いしな」 弟たちは、どこか反発してくれるから……とそうも付け加えた。 その瞬間、ミナが耐えきれないというように笑いを漏らす。 「あきらめろ」 長男だからな、お前は……と彼女はそのまま言い返してきた。 「特に、お前は父親役もしているだろう?」 そういうものらしい、と前に勉強したことがある。そういわれては苦笑を返すしかできない。 「はいはい。俺を乗り越えていけ、ってことか」 まったく、長男は損だよな……と口にしながら、きびすを返す。 「長女は尊敬されることが多いのにな」 ミナは、自分たちとは血縁はない。だが、比較的よく顔を合わせているせいか、下の二人にとっては《姉》みたいなものだ。そのせいか、自分の言葉には時々反発をするカナードも、彼女の言葉は素直に聞き入れることが多い。 ラウにいたっては、相談事を持ち込んでいるようだ。 「キラだけだよ。俺の癒しは」 こうなったら、さっさと取り返してこないとな。わざとらしいため息とともにそう続ける。 「あの子はいいこだからな。あのギナにすら尊敬の念を抱ける得難い存在だ」 だからこそ、自分たちも可愛がるのだが……とミナは笑う。 「あの子のために、必ず戻って来いよ?」 しかし、次の瞬間、表情を引き締めるとこういった。 「わかってるって」 かるくてをあげると、そのまま床を蹴る。そして、エレベーターへと体を滑り込ませた。 しかし、本当に戦闘が始まるとは思わなかった。 「……ザフトと地球軍ね」 いったい、どうしてこの場で接触をすることになったのか。ムウはそう呟く。 「やっぱ、元凶はあれか?」 戦場の中央で固まっている小さな機影。 それから今更のようにオーブの識別信号が発信されている。しかも、セイランのそれだ、と言うだけで、正体がわかったようなものではないか。 「さて……どうしたもんかね」 流石に戦場につっこんでいくほどバカではない。 だからといって、無視をするのも立場上難しい。 『フラガ様?』 どうしますか? とソウキスの一人が問いかけてくる。 「とりあえず、オーブの識別信号を出して、近づけるだけ近づいてみるしかないだろうな」 自分たちを通してくれるようであれば、あれを拾ってくればいい。そう続ける。 「それよりも、だ」 表情を引き締めるとムウは言葉を重ねた。 「ザフトのあれ。出来るだけデーターをとっておけ」 おそらく、カナードやギナが使っているのと似た機体を作るためのテスト機だろう。あそこまで滑らかに動いているのであれば、あるいは既に機体自体は完成しているのかもしれない。 そうなれば、世界のパワーバランスが大きく変わる可能性もある。 ムウは忌々しそうにそう呟いた。 『わかりました』 静かな声音でソウキスの一人が言葉を返してくる。その声にムウは冷静さを取り戻した。 「と言うことで、行くぞ」 あいつの身柄がどちらに拾われても厄介な事態になることは目に見えている。だから、と口にしながら、ムウは自分のMAをそちらに近づけていく。もちろん、オーブの識別信号を出したままだ。 そんな彼等に気付いたのか。 ユウナのものとおぼしき機体がゆっくりと方向を変えてくる。 「後で怒鳴られることよりも、今の安全を確保することを選択するか」 そういうところが、あいつだよな……とあきれたように笑った瞬間だ。何かが精神に触れてくる。 「これは……ラウか?」 言葉とともに、意識を集中した。そうすれば、間違いなく覚えがある感覚が彼の中で形を作る。 「……キラも、いるな」 ラウのそれよりもはっきりとしないが、間違いなくその存在を感じ取れた。 「本当は、真っ先に二人を助けにいきたいんだがな」 しかし、今の状況では不可能だ。だから、とムウは唇の端を持ち上げる。 「八つ当たりぐらいは許されるよな」 さっさとあれを拾って、アマノトリフネで遠慮なく八つ当たりをさせて貰おう。 こう呟くと、さらにそちらに向かってMAを接近させていった。 |