センサーに自国のものではない船影が映し出された。
「……オーブの船かね?」
 その報告に、デュランダルは即座に聞き返す。
「いえ……少なくとも識別信号はオーブのものではありません」
 それどころか、普通の船よりももっと小さい機影だ……と報告が返ってくる。
「……スパイ、かね?」
 こう問いかけたのは、その前に地球軍の小型艇をとらえていたから、だろう。
「わかりません」
 だが、可能性は否定できない……とそう言い返される。
「なるほど」
 確かに、今、手元にあるデーターだけでは判断できない。しかし、逆に言えばその可能性もある、と言うことだ。
「悪いが……あれを捕縛してきてくれないかね?」
 この宙域にいると言うことは、ヘリオポリスから出てきた可能性が高い。あのプラントでは、先日の一件であちらこちらに修理必要な損傷がでているらしい。ひょっとしたら、その際中にシステムに不具合をおこし、方向を見失った可能性もある。
 地球軍のスパイだとしても、こちらで確保しておくに越したことはないだろう。
「了解しました」
 それに関しては同意なのか。グラディスも即座に頷いてみせる。
「そうね……ラスティ達に出撃を命じてちょうだい」
 あれを拾ってくるように、と彼女は部下に命じた。
「ただし、気を抜かないようにと言って。彼ならわかっていると思うけど」
 さらにこう続ける。それは、地球軍の小型艇がどこにいるかわからないからだ。
「了解しました」
 即座に言葉が返ってくる。
「さて……いったい誰があれに乗っているのやら」
 実に楽しみだね、とデュランダルは笑う。
「地球軍の心配がなければ、あれのテストをして欲しいくらいだ」
 ニコル達が持ってきたそれは、まだ開発途中だと言っていい。
 だが、このような任務であれば、今のあれでも十分に可能ではないか。
 ついでに、可能であれば、キラにその動きをチェックして貰えばいい。そのまま興味を持って貰えればいいのだが……と心の中で付け加える。
 だが、それはあの男が邪魔するだろうね……と小さなため息をついた。
「それは、しかたがありません。MAでの出撃を命じます」
 あれならば、マニピュレーターが付いている。何よりも、あれのためのテスト機でもあるから、万が一、戦闘状態になったとしても大丈夫だろう。
 グラディスは微かな怒りを声に滲ませながら口にした。
「ザフトの機体は、プラントの人間によって開発されるべきではありませんか?」
 言外に、オーブの民間人を巻き込むな……とそう告げている。
「確かにね」
 本当に、自分の内心を読み取ることに長けているね……と苦笑を浮かべつつデュランダルは言葉を返した。
「体調が優れないだけではなく、不眠の傾向も見られる、と軍医から報告がありました。これ以上、彼女を追いつめればどうなるか。判断できかねる、という所見もつけられていましたわ」
 ぎりぎりのところで持ちこたえている相手に、想像だけとはいえ、重荷を押しつけるな。そう付け加えられては流石のデュランダルも持論を引っ込めないわけにはいかない。
 確かに、無理を強いているという自覚はあるのだ。
 だが、それ以上に叶えたい目的がある。
 そのためには、どうしてもキラとその遺伝子が必要だ。だから、とデュランダルは心の中で付け加える。
 彼女には妥協をしてもらわなければいけない。もちろん、その保護者達にも、だ。
「孫を見せて欲しいだけなのだがね」
 ぼそっとこう呟く。
「……議長……」
 グラディスが冷たい声で呼びかけてくる。
「いけないかね?」
「状況を考えてご発言ください!」
 別の状況であれば、微笑ましいと言って差し上げましたが……と彼女はにらみつけてきた。
「その前に、ご自分のお子様を作られる方が先ではありませんか?」
「何を言っているのかな?」
 自分には、手のかかる子供が二人もいるよ? と平然と言い返す。
「別に、自分の遺伝子でなくても構わないからね」
 むしろ、自分の遺伝子は残したくない。そう思っていることを彼女は気付いているかもしれない。
 自分一人だけでは意味がない。
 好きな相手との子供でなければ意味がないのだ。
 その主張はプラントでは通用しない。その現実を何とかしたいと思っているのは自分だけではないはずだ。
 そのためにも彼女の存在が必要なのだ、とそう心の中で付け加えた瞬間である。
「マッケンジー機、発進しました。続いて、ホーク機、発進します」
 管制から報告が届く。
「十分に注意するように伝えて」
 流石に、これ以上のじゃれ合いは万が一のときの対処に支障が出る。そう判断したのだろう。グラディスは表情を引き締めると指示を出す。
「了解」
 即座に言葉が返ってくる。その光景に、デュランダルは今までと違った意味で微笑んだ。