そっと二つの体が滑り込んでくる。
「……ニコル君?」
 後から現れた人物の顔を確認した瞬間、キラの顔がかがやいた。
「お久しぶりです、キラさん」
 しかし、彼が身につけている服を確認した瞬間、その表情が曇る。それが、ラスティと同じ色の軍服だと気が付いたのだ。
「……ザフト、に?」
 震える声でこう問いかける。
「父さん達に騙されました」
 それにニコルは苦笑をと共に言い返してきた。
「騙された?」
 しかし、彼の言葉にキラは別の意味で衝撃を受けてしまう。
「イザークとディアッカは自分から志願したそうですけどね」
 それはすんなりと納得できる。彼等は積極的に戦う性格ではないが、それでも黙ってみているよりは自分から攻撃した方がいい、と考えるタイプだ。
 何よりも、自分たちの義務はプラントを守ることだと考えていた。だから、とキラは心の中で呟く。
「僕とアスランは……適性検査と成績を知りたいからという理由で受けさせられたんです。もちろん、辞退していいからと約束して貰っていたんですが」
 その約束自体が嘘だったのだ。ニコルはそうも付け加える。
「アスランも?」
 それこそ信じられない、とキラは思う。
「えぇ。目の前の餌につられたようですよ」
 単純に喜んで、その裏に隠されている意味を考えなかったアスランのミスだ。そういってニコルは少しだけ人の悪い笑みを浮かべる。
「キラさんのメールアドレスをGETしたかったなら、大人しくラクスさんに聞けばよかったんです」
 それを拒んだから、あんな見え見えの罠に引っかかったのだ……とニコルは続けた。
「僕も人のことは言えませんが……それでも、僕の方は十八になったら退役して好きなことをしていいときっちりと書面にして貰いましたから」
 今度は騙されない。彼はそういいきる。
「もっとも、そのおかげでキラさんに一番に再会できましたから……何が幸いに繋がるかわかりませんね」
 にっこりと微笑んでくれるのは嬉しいが、やはり複雑だな……とキラは思う。
「何よりも、キラさんを守れますし」
 そんなキラの気持ちがわかっているはずなのに、ニコルはさらに笑みを深めながらこういった。
「安心してください。必ず僕たちがキラさんをオーブにお返しします」
 もちろん、キラがプラントに残ってくれるなら、その時はその時でしっかりとお世話させて頂くが……と彼はつけ加える。
「今でも、あの約束は有効ですから」
 いつでもお嫁に来てください! と彼は真顔で口にした。
「ニコル君?」
 そんな彼にどう反応を返せばいいのか。キラはそれがわからずに救いを求めるようにラウへと視線を移した。
「抜け駆けはやめておきたまえ」
 それを受けたのだろう。ラウは苦笑を浮かべながらこう告げる。
「でなければ、他の者達に恨まれるのではないかな?」
 もしくは、ラクスににらまれるだろうね。そう続けた。
「イザーク達に恨まれるのは構いませんが……ラクスさんににらまれるのは怖いですから、とりあえず自重しておきます」
 残念ですが、と付け加えた言葉が彼の本音だろう。
「……ラクス様って、そんなに怖かったっけ?」
 ふっとラスティが口を挟んでくる。
「キラさんに関わること……だけですけどね」
 とりあえずは、とニコルは意味ありげに笑う。
「現在、一番の被害者はアスランだけですけど」
 さらに彼はこう付け加えた。
「……アスラン?」
 マジ? とさらにラスティが問いかけている。と言うことは、彼もアスラン達を知っているのだろうか。
「あのアスランがねぇ」
 イザークならまだわかるんだけど、と彼は続けた。
「面白いですよ。キラさんをネタにアスランをからかうのは」
 アスランが思い切り楽しい反応をしてくれている、と彼は続ける。
「キラさんには申し訳ないですけど」
 こう言いながらニコルは視線を向けてきた。
「……別に、僕はいいけど……変なことは言ってないよね?」
 キラは首をかしげながら聞き返す。
「もちろんです。変なことを言えば、ラクスさんに殺されます」
 しかし、このセリフは何なのだろうか。
「何をしているんだよ、ラクスは……」
「……何と言えば、フレイ嬢と同じようなことではないのかな?」
 即座にラウがこう告げる。それだけで状況がわかってしまうのは嬉しくない、とキラは心の中で呟いた。
「オーブでもそんな方がキラさんの側にいらしたんですね」
 それは良かった、とニコルは笑う。
「しかも、ナチュラルの女性だよ」
 フレイだけではなく、他にもいた……とラウはさらに言葉を返している。
「……兄さん……」
 どうして、自分のことなのにラウが喜々として話をするのだろうか。キラはそれが不思議でならない。
「いいことだからね。自慢していいと思うが?」
 そういう問題なのだろうか。キラは思いきり頭を抱えてしまった。