流石に、相手の存在を無視できなくなってきている。
『とりあえず、私の名前で彼等の行動の目的を問いただしておくよ』
 モニターの向こうで、ホムラが厳しい表情を崩さないままこう口にしてきた。
「お願いします」
 地球軍に対してならば、そちらの方がいいだろう。
 そう判断をしてムウは頷く。
『何。その位当然だよ』
 そんな彼にホムラは微苦笑と共に言葉を返してくる。
「ホムラ様?」
『私も《アスハ》だからね。そして、君達の後見人でもある』
 君達も、自分から見れば可愛いと思えるよ……と彼は笑みを優しいものに変えた。
 しかし、それはムウにとって気恥ずかしいなどというものではないセリフだ。キラやカナードならまだしも、自分は、もうじき三十路になる男のだぞ、と心の中で呟く。
『親にとって見れば、子供はいくつになっても子供だ……と言うことだよ』
 それは血のつながりがあるなしにかかわらず、とホムラは続ける。
『子供、と言えば……』
 しかし、彼の表情がすぐに曇った。
「カガリなら、とりあえず大人しくしていますが?」
 彼が心配する相手と言えば……と思ってムウはこう告げる。
『いや……あれも問題児だが、最低限の判断は出来る、と思いたい』
 その程度の教育はしてきたつもりだ、と言う言葉にとりあえず納得をした。確かに、無茶はするが、きちんと納得させれば自制をすることも出来る。
 後は、あの思いこんだら一直線の性格を何とか矯正できればきっと、いい首長になるだろう。
 しかし、彼女ではないとすると……と考えてあの可能性に行き着いてしまった。
「……まさかと思いますが、あれですか?」
 もう一人、彼等から見れば《子供》と言っていい年齢の人間が、ヘリオポリスにいたな。そう思いながら問いかける。
『あぁ……あれだよ』
 彼の声音に疲労の色が感じられるのは錯覚だろうか。
『かなり強引に抜け出してくれたのでね。今、トダカ一佐達が捜索中だ』
 宇宙港は抑えてある。だから、すぐに見つかるのではないか。彼はそう続けた。
『もっとも、彼等が救命ポッドを奪って逃げ出す、と言う手段を執れば話は別だが』
 その場合、目的地は地球軍の艦艇だろう。
「そっちに合流されると、厄介なことになりますね」
 あれでもセイランの跡取りだ。彼の依頼は正式なものとして受け止められかねない。
 最悪、地球軍にオーブ介入の口実を与えてしまうことになるのではないか。
『私も、それが心配なのだよ』
 その結果、オーブの中立性が失われては困る。
 オーブが天秤のようにバランスをとっているからこそ、辛うじて戦争に突入せずにすんでいるのだ。
 しかし、オーブがどちらかの国に荷担をすれば、そのバランスはあっさりと崩れる。
 だからこそ、あちらに行った方が楽だとわかっていても、キラをプラントに行かせるわけにはいかなかった。そして、ラクス達も無理に誘うようなことはなかったはず。
「どうしますか? 俺かカナードが戻った方がいいならそうしますが」
 トダカ達だけでは大変だろう。そう思ってムウは問いかける。
『大丈夫だよ』
 その必要はない、と彼は微笑む。
『それよりも、君達は万が一のときのためにそこで待機しておいて欲しい』
 戦闘にはならないとは思いたいが……と彼は言外に付け加えた。
『その前に、飛び出した落とし物を拾うことをお願いする可能性の方が高いかな?』
 要するに、万が一、ユウナが逃げ出したらこちらで確保しておいて欲しい、と言うことか。
「それは構いませんが、ちょーっとおしおきをするかもしれませんよ?」
 特に、ギナが……とさりげなく付け加える。
『しつけをするのは年長者としては当然だろう?』
 小さな笑いと共に彼は頷いて見せた。
『サハクの双子は既に首長だ。そう考えれば、まだ、セイランを継いでいないユウナは彼等に従う義務があるだろうからね』
 さらに重ねられた言葉にムウは満足そうな笑みを浮かべる。しかし、それは見る者が見れば、肉食獣が手ぐすね引いて獲物を待っているような……と表現するのではないだろうか。
「わかりました。二人にはそう伝えておきます」
 いや、楽しみだな……と付け加えれば、ホムラの笑みに少しだけ苦いものが滲む。
『ほどほどにな』
「わかっていますよ」
 教育的指導をするだけです、とにこやかにムウは言葉を返す。
「もっとも、俺よりもカガリとカナードの方が厳しくするかもしれませんね」
 止めますけどね。止められないかもしれないですよ、と付け加えた。
『その位は、こどものケンカだから構わないだろう』
 では、頼むよ……と言い残すと、彼は通信を終わらせる。おそらく、あれこれ指示を出さなければならないことがあるのだろう。
「さて」
 ムウもこう呟きながらきびすを返す。
「一応、みんなに伝えておくか」
 その後でそれぞれがどのような反応を返すか。それはそれで楽しみなような気がする。もっとも、それはユウナにとっては不幸だろうが。
 そんなことを考えながら移動を開始した。