予想以上の早さでラクスからメールが返ってきた。その内容に、カガリはほっと安堵のため息をつく。
「知らせておいた方がいいんだろうな」
 みんなに、とそうも付け加えたのは明るい内容だと思えるからだ。
 きっと、これを知れば、彼等も安心をしてくれるような気がする。
 だからと思いながら、腰を上げかけた。
「入るぞ、カガリ」
 まるでそれを待ちかまえていたかのように、端末からカナードの声が響いてくる。そのタイミングの良さに、思わず監視されているのではないか、と考えてしまったのは内緒だ。
「……どうかしたのか?」
 しかし、顔に出てしまっていたのか。カナードがこう問いかけてくる。
「またなんか、悪だくみをしていたわけじゃねぇだろうな」
 さらに、ムウも顔を見せた。
 それは構わないのだが、このセリフはいったい何なのか。
「悪だくみなんてしていない!」
 即座にカガリは叫び返す。
「ラクスからのメールが届いたから、二人に声をかけようとしていただけだ!」
 そうしたら、二人が来たから驚いただけ、とカガリはついつい白状してしまう。
「ラクス・クラインから?」
 しかし、彼等にしてみれば、そんな自分の言動よりもこちらの方が重要だったようだ。
「いったい、何と言ってきたんだ?」
 こう言いながら、彼等はカガリに近寄ってくる。
「……とりあえず、キラとラウさんの居場所は特定できたって……」
 偶然だが、ラクスの関係者が同じ艦に乗り込んでいる。だから、いざというときには協力してくれるはずだ……と書いてあった。カガリは口にする。
「それに……キラ達はキラ達で、既にシステムの一部を乗っ取っているってさ」
 相手にその事実を気付かれないように、大人しくしているだけだ……と言っていたとさらに言葉を続けた。
「そうか」
 とりあえず、それならば安心だな……とムウは頷く。
「キラが一緒にいるんです。その位して貰わないと困ります」
 それに対し、カナードの方は手厳しい。
「そういうなって。あれにはあいつが乗っているんだぞ」
 ラウの天敵が、とムウが苦笑と共に口にした。
「あの人の天敵、ですか?」
 ムウの天敵であれば、たくさん思い浮かぶ。しかし、ラウにそのような存在がいるとは思ってもいなかった。
「あぁ……昔、あいつが一時期プラントに行っていたことがあっただろう? その時に会ったんだとよ」
 俺よりも二つ上の存在だと言っていたが……とムウはさらに言葉を口にする。
「誰なんですか、そいつは」
 あの艦に乗り込んでいるのか。そうカナードがさらに問いかけていた。
「……名前だけはお前らも知っていると思うぞ」
 と言うか、この僅かな時間の間であそこまで出世するとは思わなかった……とムウがため息を返す。
「ギルバート・デュランダル。現プラント最高評議会議長だ」
 さらに続けられた言葉に、カガリだけではなくカナードも驚きを隠せない。
「それって……」
「かなり、まずくないですか?」
 あの艦にはその人物が乗っているのではないか。そうカナードは彼に聞き返している。
「まぁ、大丈夫だろう。少なくとも、その程度で冷静な判断が出来なくなるような人間ではないからな」
 もっとも、戻ってきてから倒れるかもしれないが。その時はキラも同じような状況だろうから、二人揃って病院につっこんでしまえばいい。そうも彼は続ける。
「どのみち、あいつらに後始末はさせる気はないからな」
 その間に大人しくしていてもらわないといけないだろうから、とムウは苦笑いと共に付け加えた。
「そうですね」
 確かに、そうして貰った方が安心だ。そうカナードも同意を示している。
「その前に、二人を取り戻さなければいけないがな」
 ムウが呟くように言葉を口にした。確かに、それが前提だ……とカガリも頷きかけたときである。
「もっとも、早急にしなければ行けないことがあるがな」
 不意にムウが彼女の方に手を伸ばしてきた。そのままカガリの襟首を掴む。
「何をする!」
 即座に、カガリは抗議の声を上げた。手足をばたつかせて、彼の手から逃れようとする。
「ウズミ様からの通信が入ることになっている。と言うわけで、付き合って貰おうか」
 しかし、逆に引き寄せられてしまう。
「お父様から?」
「内緒で出てきたんだってな」
 しっかりと怒られろ。この言葉とともにムウはカガリの襟首を掴んだまま歩き出す。
「放せ!」
 怒られるのは構わない。だが、こんな姿を他人に見られるのは屈辱だ。そういいたいのに、ムウは気にする様子を見せない。
「諦めるんだな」
 実は、彼はカガリのしでかしたことを怒っているのだ。カナードはそう教えてくれる。だから、その怒りがおさまるまで解放されないだろう、とも。
「自分で歩ける!」
 それでも、こう叫ばずにはいられないカガリだった。