「できれば、軽い睡眠導入剤か何か、欲しいのだが……」
 ラウは部屋にやってきたレイにそっと声をかける。シンにではなかったのは、彼であれば間違いなく大騒ぎをするだろうと判断してのことだ。
「……キラさんの体調が、それほど悪いのですか?」
「と言うよりも、起きていると何かをしないと安心できないようでね」
 少しもう休んでくれないのだよ……とわざとらしくため息をついてみせる。
「何かしていないと、落ち着かないらしい」
 だが、それではいつまで経っても体調が戻らない。だから強制的に睡眠をとらせようかと思ってね……と苦笑と共に付け加えた。
「……そういうことですか……」
 でも、と彼は続けようとする。
「私たちは自由にここから出られないからね」
 医務室の場所は知っているが……とその前に口にした。
「そう、でしたね……」
 その瞬間、レイは申し訳なさそうな表情を作る。
「ですが……キラさんの体調を考えれば、ドクターの診察を受けて頂いてからでないと……」
 薬が体に合わないという可能性があるから、と彼は続けた。
「それは、そうかもしれないね」
 確かに、キラの体のことを考えれば、どれだけ軽い薬品でも体に合わないものは使わせたくない。しかし、とラウは眉根を寄せる。
「俺の方から、ドクターに頼んでみましょうか?」
 レイがおずおずとした口調で問いかけてきた。
「そうだね」
 確かに、その方が安心だ。
「問題は、あの子が素直に診察を受けてくれるかどうかだが……」
 それを納得させるのは自分の役目だろう。そうラウは呟く。
「ですが……キラさんはいったい何のプログラムを作っているのですか?」
 不意にレイが話題を変えてくる。
「あぁ、あれかい?」
 別にあれに関しては別にあれに関しては伝えても構わないだろう。
「ミュージックプレイヤー用のスキンだ、と言っていたね」
 手慰みだから無駄にこっているようだよ、とそうも付け加える。
「しかし……」
 何を聞くつもりなのか。レイが微かに眉間にしわを刻む。
「何、言ってるんだよ」
 その声が耳に届いたのだろう。即座にシンが言葉を投げつけてくる。
「ラスティさんに頼んだじゃん。ラクス・クラインのディスク」
 届けてくれていたみたい、と彼はさらに言葉を重ねた。
「そうなのですか?」
 視線と共にレイが問いかけてくる。
「本当だよ。君達からだと聞いたからね。受け取ったが……いけなかったかな?」
「いえ。もう少し時間がかかると思っていただけです」
 こんなに早く動いてくれるとは思わなかった。レイはそう付け加える。
「気を利かせてくれたのかもしれないね」
 我々が暇をもてあましているだろうと、と判断したのだろうね。ラウはそういって微笑む。
「あるいは、キラがいたからかもしれないが」
 女性に好感を持って貰いたい、と考えるのは普通だろうからね。そういってさらに笑みを深めた。
「……かもしれません……」
 油断も隙もない、とレイの唇が忌々しそうに言葉を綴っている。そういうあたり、まだまだ子供だと言っていいのだろうか。
 だが、実際に彼等はキラよりも年下だ。十分子供だと言っていい年齢ではある。
 そう言う点でまだまだ未熟だとしても当然なのではないか。
「ともかく、中身を確認するかな?」
「いえ。そこまではしなくても大丈夫だと思っていますから」
 二人の言葉から判断をして、ラスティはそれなりに信頼さえているようだ。と言うことは、彼女たちの知り合いとはいえ、無条件に信じるのは危険なのだろうか。
 それとも、わざとそうしているのか、とラウは心の中で呟く。
 だとするなら、やはり油断ならない人物だろう。
「ともかく、ドクターの方には声をかけておきます」
 話を戻して、レイはこう言ってくる。
「すまないが頼むよ」
 ラウは微笑みと共に頷いて見せた。
 キラの体調を整えることが、とりあえず急務だろう。キラが動けるのであれば、ここから強引に逃げ出すことも可能なはずだ。
 だから、と心の中で付け加える。
「夜までには何とか時間を作ってもらいます」
 レイの言葉に、ラウは素直に感謝の言葉を返した。