デュランダルの元にも地球軍の動きは伝えられた。
「ザフトの情報部は有能だね」
 複雑な表情を作りつつ彼はこう呟く。
「このまま、オーブ側と戦争に?」
 グラディスが不安そうにこう問いかけてくる。
「あるいは……我々の方に矛先を向けてくるかもしれない」
 丁度いい口実だろう? と微笑みかければ、彼女は頬を引きつらせた。
「議長!」
 そのまま、彼女の口から出たのはデュランダルを非難する声だ。
「可能性がないとは言いきれないよ?」
 連中にしてみれば、プラントは何が何でも潰したい存在だろう。オーブに関して言えば、アスハとサハクさえ抑えてしまえばどうにでもなる、と考えているはず。
 そうなれば、当面の邪魔者は自分たちではないか。
「まして、ここには私がいるしね」
 自分の存在がなくなれば、プラントは混乱に陥るだろう。
 その隙に攻め落とすのは簡単だ。そう考えているのではないか。
「もっとも、私もそう簡単に死ぬつもりはないけどね」
 君達もいるしね、と告げながら視線をグラディスへと向ける。
「信頼して頂けるのは嬉しいのですが……」
 しかし、戦力差は否めない。彼女はそういって顔をしかめた。だから、万が一の可能性は否定できないとも付け加える。
「……まぁ、大丈夫じゃないかな?」
 しかし、デュランダルはあくまでも余裕を崩さない。
「議長?」
 いったい何を、と言外にグラディスが問いかけてくる。
「我々はあの二人を保護している。彼らを守ろうと、きっと、あの新型が動いてくれるだろうね」
 そうなれば、こちらが有利になるのでないか。
「もっとも、あまり期待しすぎてもいけないのだろうが」
 しかし、きっと来るだろう……と言う確信めいたものがデュランダルの中には存在している。
 だが、それは自分が《ラウ・ラ・フラガ》と言う人間を個人的に知っているからだ。そして、彼を見ていれば他の二人の兄弟達がどのような存在なのかも想像が付く。
「……むしろ、来ない可能性の方が高いのではありませんか?」
 それを知らないタリアがこう言い返してくる。
「第一、あの二人が本艦に保護されていることをどこにも漏らすな、と命じられたのは議長ではありませんか!」
 思い切り不本意な命令だった、と彼女はさらに付け加えた。
「ひょっとして、キラさんの体調が不安定なのは、そのせいではありませんか?」
 戦艦独特の雰囲気――それが平時のものでも――は民間人にとっては今まで体験したことがないものだろう。しかも、彼女たちは安全のためと称して、ほぼ与えられた部屋に閉じ込められている状態なのだ。
 屈強な男性でもそのような状況に長時間おかれてはストレスを感じるに決まっている。
 まして、大切に育てられた少女であれば辛いなどという一言ではすまないのではないか。
「……それでも、私としては養い子達の恋を応援したくてね」
 自分のそれが実らなかっただけに余計に、とデュランダルは意味ありげな笑みを向ける。
「……ですが……それとこれとは別問題です!」
 それでも、グラディスは引き下がらない。
「ともかく、民間人の安全を第一に。二人だけではなくあの子達のことも含めてね」
 いざとなったら、戦闘区域外に逃がすことも考えなければいけないだろう。
「わかっています。最悪の状況を想定して人員を配置しておきます」
 グラディスはこう言ってくる。
「任せるよ」
 それに関しては、彼女の方がよくわかっているはずだ。だから、自分が口を出すことではない。
「……それと」
 しかし、できればあの二人を手放したくないと言うことも本音だ。だから、と思いながら言葉を綴る。
「近くにいるザフトの艦艇に、こちらに来るように連絡を送ってくれないかな?」
 数が足りないというのであれば、同等になるようにすればいいだけのこと。
 そして、それを命じられる権限を自分は持っている。
「わかりました」
 それは彼女も考えていたのだろう。こちらに関してはあっさりと同意をしてくれる。
「では、早急に行動に移らせて頂きます」
 この言葉とともにグラディスはデュランダルから離れていく。
「ともかく、今回のことが最大のハードルになるのだろうね」
 彼女の後ろ姿を見つめながら、そう呟く。
 だが、逆言えば、これさえ乗り越えることができれば、自分の願いは叶えられると言うことではないか。
「となると、踏ん張らないといけないだろうね」
 一番欲しいものは既に手に入らない。
 ならば、せめて……とそう呟いていた。