さて、目の前のお子様をどうすればいいのか。 同時に、いきなりこの子を押しつけてくれたムウ達に対して怒りすら感じてしまう。 「……カナード、さん?」 そんな彼の感情を的確に受け止めたのだろうか。おずおずとカガリが呼びかけてくる。 「自分がどれだけ愚かな行動をとったのか、わかっているのか?」 大人げないとはわかっていても、ついついこう問いかけてしまう。 「だって、キラが!」 それに、カガリはこう言い返してくる。 「……キラのことは、俺たちに任せておけばいい……」 お前にはお前の立場があるだろう、とカナードは言い返した。 「お前が動いたことで、どれだけの人員をキラ達の捜索から外さなければいけなかったと思っている?」 彼等がいれば、キラ達の居場所を掴んだときに、どれだけ楽か。 こう付け加えたのは、もちろんイヤミだ。 別に連中がいなくても――いや、いない方が自分は楽だと言うことは否定しない。それでも、キラを見つけたときにその身を守ってくれる存在は必要だ。 何よりも、自分が誰かを傷つけるところを見れば、あの子は『自分のせいだ』と落ちこむことはわかりきっている。 だから、そうなる前に、あの子を連れ出してくれる人間というのが欲しい。 そんな連中が多ければ多いほど、自分のしていることをキラの目から隠してくれるだろう。 もっとも、それも自分勝手な考えなのかもしれない。 「私は、護衛なんかなくても……」 「そう思っているのは、お前だけだ」 他の者達はそう思わない。 キラとカガリであれば、多くの者達は《カガリ》を守ることを選択するだろう。 「お前はアスハの継嗣だからな」 たとえ、その出自がどうだったとしても《アスハ》の名を得たときから、お前はそういう存在になったのだ。 カナードはそうも付け加える。 「……私は……」 「わかったら、大人しくしていろ」 決して、自分がキラを救い出そうとするな。少し厳しい口調でカガリの言葉を遮った。 「でなければ、キラの立場が悪くなる」 キラのせいでカガリが無理をする。 そう判断をされれば、キラはオーブにいることすら難しくなる可能性だってあるのだ。 「お前は、それでもいいんだな?」 「いいわけないだろう!」 カナードの言葉に、カガリはすぐにこう言い返してくる。 「しかし、お前の行動はそうしたいと考えているしか思えないぞ」 もっとも、と意地悪い笑みをカナードは浮かべた。 「それでもキラは困らないだろうな。そして、その方が嬉しいと思っている連中もいる」 プラントに、と付け加えた瞬間、彼女の表情が強ばった。 「誰がキラを、あのバカどもに渡すか!」 キラはずっと、オーブにいるんだ! とカガリは叫ぶ。 「なら、大人しくしていろ。でないと、本気でキラを連れて行かれるぞ」 万が一の可能性を考えて、ラクスにだけは連絡してある。彼女がどう判断をするかによって、状況が変わっていくだろう。 「……その前に、キラを取り戻したければ、ここで大人しくしていろ」 いいな! と付け加えれば、彼女は渋々ながら小さく頷いてみせる。それがどこまで信用できるかわからないが、当面は大丈夫だろう。カナードはそう考えることにした。 そのころ、プラントでは、あるお茶会が開かれていた。 「……それは本当なのですか?」 ラクス、とアスランが問いかけている。 「オーブのムウ様からはそう連絡が来ておりますわ」 そして、確かに、キラが現在、オーブの支配区域にいないことも事実だ。そうラクスは言い返す。 「その場には、地球軍の船とプラントの船がいたそうですわ」 独自に調べたのだろう。彼女はさらに言葉を重ねる。彼女の情報ネットワークがどこまで広がっているのか。個人的に興味がないと言えば嘘になるだろう。 しかし、と心の中で呟く。 それよりももっと優先すべきことがある。 「とりあえず、地球軍の船にはキラ様の姿はなかったそうですの」 そうなれば、消去法で可能性が残されているのはプラントの船だ、と言うことになるだろう。 しかし、その船はオーブからの問いかけを無視しているのだとか。 「わたくしとしては、キラがプラントに来てくださるのは嬉しいのですが……でも、ご本人の意志を無視した状況で連れてこられるのは違うと思いますの」 そんなことになれば、キラがプラントを嫌いになるかもしれない。 それでは意味がないだろう。そうも彼女は付け加えた。 「……それならば、すぐに!」 こう言ってアスランは立ち上がろうとする。しかし、ラクスはそんな彼を優雅な仕草でたたきのめした。 「それでは、キラに危害が加えられたらどうなさいますの!」 もう少し考えて行動してくださいませ! と彼女は言い切る。 「それでは、何をしろとおっしゃるわけですか?」 自分たちを集めたのには、それなりの理由があるはずだ。そうイザークが問いかけた。 「とりあえず、キラの居場所の特定です。その船にキラとラウ様が乗っているのかどうか。それがわからなければ、ムウ様もカナード様も動けませんわ」 だから、と彼女はイザークとディアッカの方へ視線を向けてくる。 「お二方なら、あの船にお知り合いが乗っている可能性がおありではありませんか?」 つまり、そういうことか。ディアッカは心の中で呟く。 「いないわけではありませんが……連絡が取れるかどうか」 もっとも、そういうことであれば無理をしてでもとるが。そう考えたのはディアッカだけではないらしい。 「……いざとなれば、隊長権限だろうと何だろうと使います」 でなければ、母の名前もだろうか。イザークはそうも続けた。 「お願いします。その状況によって、わたくしも態度を決めさせて頂きますわ」 それはこの場所にはいないニコルも同じ意見だ。そうも彼女は口にする。と言うことは、事前に話し合いが出来ていたと言うことか。 「そういうことならば、俺もそうさせていただきますか」 ディアッカは頷く。 「そうだな。キラの安全を優先するにはそれが一番だ」 問題はその腰抜けだけか……とイザークは悶絶しているアスランを見下ろして口にする。 「これのことはご心配なく。わたくしがしっかりと見張らせて頂きますわ」 ラクスが高らかに宣言をした。 それならば大丈夫だろう。 ディアッカはイザークと顔を見合わせると頷きあった。 |