何故かはわからないが、くしゃみが出てしまう。 「風邪か?」 ムウ、とロンド・ミナが笑いながら声をかけてくる。 「いや。そういうわけではないが……」 何故か、悪寒がするんだよな……とそう呟いた。 「……その悪寒の正体かもしれないのだが、な」 何故か周囲に視線を彷徨わせながら彼女が口を開く。その様子は、今まで見たことがないものだと言っていい。 「……どうした?」 それだけ厄介な内容なのか、と思いながら声をかける。 「カガリ・ユラが……クサナギでこちらに向かっているそうだ……」 やめてくれ。 よりにもよって、この時に……と言うのがムウの偽らざる心境だった。 「ウズミさまとキサカは何をしていたんだよ……」 思わずこう呟いてしまう。だが、それをロンド・ミナもそれをとがめるような言葉は口にしない。 「と言うよりも、あの娘の方が巧みだったのか……あるいは、誰かの手助けがあったのかもしれんな」 その可能性は高いだろう。 しかし、とムウは顔をしかめる。 「それって、まずくはないのか?」 アスハの内部に反対勢力がいると言うことではないのか、とそう告げる。だとするならば、こちらの情報があちらに筒抜けになる可能性も否定できないだろう。 「……手引きをしたのが他の誰か、であればそうかもしれんが……」 相手が相手だけに、その可能性は低いだろう。ロンド・ミナはそう言い返してくる。 「誰なんだ?」 「マーナ、だ」 キラのことを心配した女二人が手を組んで……と言うところだろう。彼女はそういってため息をつく。 「……マーナか……」 それならば、やりかねない。ムウもこう言ってため息をついた。 「しかも、ジュリ達を巻き込んでいるらしい」 三人セットであれば、カガリ一人ぐらい隠すのは難しくなかったであろう。そうも彼女は続けた。 「あいつは……」 頼むから大人しくしていてくれ……とムウはまたため息をつく。 「それが出来るような性格なら、誰も苦労はすまい」 だから、自分たちも彼女にはキラのことを伝えていなかったのに……とロンド・ミナも彼女は付け加えた。 「カナードだけで手一杯だぞ、俺は」 今でも飛び出しそうになっている彼をなだめるのが精一杯だというのに……とムウはため息をつく。 「私も、ギナを見張るだけで精一杯だな」 あれも、何をしでかしてくれるかわからない。言葉とともに苦笑を浮かべる。 「まぁ、いい。あれのことはホムラに任せておこう」 それでも言うことを聞かないようであれば、彼女のアスハ継承について考えさせてもらわないといけないかもしれないな。そうも続けた。 「……ロンド・ミナ……」 「己の感情に正直なのはいい。あのこの事を心配しているのも、当然の権利だろう」 それでも己の立場を理解できないのであれば、首長としてふさわしくない。そうまで彼女は言い切った。 「もっとも、あれもまだ若い。これからの教育次第だろうがな」 あるいは、キラが側にいれば落ち着くのか……と付け加える。 「それはそれで問題があるな」 ギナと取り合いになりそうだ、とロンド・ミナは小さな笑いを漏らす。 「ついでに、カナードもその中に加えておけ」 もっとも、とムウは付け加えた。 「その前にあれの母親役を納得させないといけないだろうがな」 それが誰のことを指しているのか。言わなくてもロンド・ミナにはわかったのではないだろうか。 「確かに、あれは《母親》だな」 あれのおかげで、キラは素直ないいこに育ったのだろうし……と彼女は笑う。 「本当。あれがお前の《弟》でよかったよ」 でなければ、キラを安心して預けられなかった。たとえ、ムウ達が適任だとわかっていても、だ。そう付け加えられて、少しだけムウは自分の機嫌が降下したことに気付いた。 それを察したのか。ロンド・ミナはさらに言葉を重ねる。 「でなければ、あの子はがさつに育っただろうからな」 カガリが二人になるかもしれない、と思えば、想像が付くだろう。こう言われては反論も出来ない。 「……否定できないな」 今も彼がキラの側にいる。そして、全力で守っていることは想像に難くない。 自分たちがあれこれ動いているときも、彼だけはキラの側にいるのだ。 それに甘えていたことも、自分の中では否定できない事実である。 「ともかく……適材適所で行くしかないか」 これ以上厄介ごとは背負えない。ムウの言葉に、ロンド・ミナも頷いてみせる。 「こうなれば……あの愚か者も拘束しておくべきかもしれないな」 今はまだ、ヘリオポリスにいるセイランのバカ息子を思い出したのだろう。彼女はそうも続けた。 「いっそのこと、あれこそ、救難ポッドで放り出したいよ」 そうすれば、しばらくは大人しいだろう。もっとも、地球軍にあれが拾われたら、それはそれで厄介かもしれないが。 「……でなければ、ギナにでも見張らせておくか」 それはそれで、ストレスがかかるだろうな、とムウは思う。 「そのギナを誰が監視するか、と言う問題があるが……」 「そうだな」 本当に、もう少し使える人材が欲しい。そういうミナに、ムウも頷いて見せた。 |