やはり、と言うべきか。
 拿捕された地球軍の艦内には、行方不明になっていた教授陣をはじめとした拉致されたとおぼしき者達がいた。
 しかし、そこにキラとラウの姿はない。
「……となると、ザフトの船の方か……」
 ムウは考え込むようにあごに手を当てながらこう呟く。
「そっちはそっちで問題のような……」
 さて、どうするか……とそう付け加える。
「……あちらは、お前の顔を知っているのか?」
 不意に背後から声がかけられた。いくら考え事をしていたからとはいえ、相手の接近に気が付かないとは……とムウは少し焦る。
「……多分、な」
 と言うよりも、と口にしながら、体の向きを変えた。
 そこには、当然のようにロンド・ミナが端然と立っている。おそらく、彼女は《味方》だと言う認識があるから、自分のセンサーが働かなかったのだろう。
 しかし、それはあまりよろしくない。
 気が付いたら、キラをさらわれていたという状況だって考えられるのだ。
 特にギナが怖い……とこっそりと心の中で呟く。
「と言うか、あっちにはラウがいる。顔を見れば俺とあいつが血縁関係にあることはわかるだろう」
 自分たちはよく似ているから。
 それに、もう一人、あちらには自分たちの関係者と思われる相手がいる。
 当然、こちらのことは調べ上げていると考えていいのではないか。
「かといって、カナードを行かせるのも、な……」
 別の意味で心配だ。
 ラウと早々に合流してくれるのであればともかく、そうでなければ何をしでかすかわからない。言外にそう付け加えれば、ロンド・ミナは苦笑を浮かべた。
「そうだな。多少は発散したかもしれぬが、あれも限界が近い」
 先に暴走しそうなのはギナの方かもしれないが。そう彼女は続けた。
「どちらにしても、あれは我らと会談をするために来ている。そう考えれば、接触できることは確定しているが……」
 だが、今度は別の問題が出てくる、と彼女は眉根を寄せた。
「……あれを見られたと?」
「可能性は否定できまい」
 進路上で戦闘を行ってしまった以上、当然のことだ……とさらりと付け加える。
「……あれとキラを交換、と言い出される可能性もあると言うことか」
「あの子が無事に帰ってくるなら、それもやぶさかではないがな」
 だが、連中がそうしてくれるかどうかわからない。そう彼女は言い切った。
「……可能性は否定できないな……」
 キラの才能を知っている以上、連中がそう簡単に手放すだろうか。
「こうなると、ラウだけが頼りだ、と言う状況は変わらないのか」
 キラ一人ではくてよかった、と言うべきか……とムウはため息をつく。
「あれと何とか連絡をつけなければ、な」
「……近くまで行けば、俺たちが側にいることをあいつは気付いてくれるはずだが……」
 まぁ、最近、その感覚が鈍っているような気がしなくもない。しかし、緊張をしている今ならば元通りの状況に戻っている可能性は高いはずだ。
「それに期待するしかないな」
 ロンド・ミナはこう呟く。
「思い切り不本意だけど、な」
 彼にだけ負担をかけるのは、とムウは顔をしかめながらも口にした。

 同じ頃、デュランダルもまた小さなため息をついていた。
「さて、どうしたものかね」
 このままキラをプラントに連れ去るのは簡単だろう。しかし、そのせいで彼女の精神が安定性を失っては意味がない。
 自分が欲しいのは、彼女自身だけではなくその才能もなのだ。
「……彼があそこまで過保護になるのは、そのせいもあるのか」
 だが、それだけではないように思える。
 では、いったい何が隠されているのだろうか。
「聞いても、彼は答えてくれないだろうね」
 むしろ、キラを連れて逃げ出す算段を立てるのではないか。キラの体調さえ好転すれば、彼等がここから出て行こうとするのを止めるのは至難の業だと言っていい。
 しかも、名目上は二人ともオーブの民間人だ。
 この艦のクルー達が彼等に銃口を向けられるか、と言えば答えは難しいとしか出てこないだろう。
「……レイとシンの事もあるしね」
 こう考えると、各国のタヌキを相手にしている方が楽かもしれない。
 それでも、と彼は小さな笑みを口元に浮かべる。
「探せば、いくらでも方法は見つかるものだよ」
 キラの体調が悪いというのであれば、それを理由に彼女をプラントに連れて行けばいい。
「……問題は、会談の最中だろうがね」
 彼女たちのことを隠してどこまでこちらが優位になるように物事を進められるだろうか。
 それとも……と小さな声で呟く。
 どちらにしても、まだまだ結論を出せないことだけは否定できない事実だった。