不意に、端末が自己主張を開始する。それに真っ先に反応をしたのは、今まで無視されたような状況になっていたレイだ。
「……はい」
 即座に端末を操作すると、彼は応答を開始する。
 それを小耳に挟みながらも、ラウは忌々しい気持ちを抑えきれなかった。
 ようやくうとうとし始めたキラが起きてしまうかもしれない。
 何よりも、とそっとラウはキラの体をさらに自分の方へと引き寄せる。
「……おやすみ、キラ」
 そのまま、そっと頬にキスを贈るとこう囁いた。
「うん……」
 小さなため息を漏らすと、キラは瞳を閉じる。その背中をラウはそっと撫でてやった。
 どうやら、気を利かせたのだろう。シンがそっとブランケットをキラのひざにかける。
「……余計な、お世話でしたか?」
 ラウの視線が気になったのか。彼はこう問いかけてくる。
「いや。ありがとう」
 こう言い返せば、彼はほっとしたような表情になった。
「よかった」
 この呟きは彼の本音だろう。そんな彼にラウは微苦笑を浮かべる。
 しかし、それはすぐに消されることになった。
「すみません」
 話が終わったのだろう。レイがこう言いながら歩み寄ってきた。
「ちょっと厄介なことになったようです。ラウさんだけでも構いませんので、ブリッジに来て欲しいと、艦長からの要請がありました」
 本当は、キラにも一緒に……と言いたいところだが、今の彼女は連れて行かない方がいいだろう。レイはそうも続ける。
「……キラが眠るまで、待ってもらえないのかね?」
 一番いいのは、あちらからで向いてもらうことなのだが。ラウはそうも続けた。
「至急、と言うことですので……」
 すみません、とレイは言葉を重ねる。
「俺ももう少し後でも、と言ったのですが……」
 聞き入れてもらえなかった、と彼は続けた。
「そうかね」
 その言葉を信じるべきかどうか、一瞬悩んだ。しかし、嘘だ……と言いきる理由もない。だから、とりあえず頷くだけにしておく。
「しかし、私たちはあくまでも保護されてただけの存在なのだが……」
 それなのにどうしてブリッジに行かなければいけないのか。
 ラウがこう呟いたときだ。彼の服の胸を掴んでいたキラの指に力がこもる。
「キラ?」
 起こしてしまったのか。そう思いながら視線を向ければ、まぶたの下に隠れていたはずのすみれ色が確認できる。
「どうしたのかな?」
 優しい表情を作りながら、問いかける。
「……僕も、行く……」
 そうすれば、こう言葉を返してきた。
「キラ?」
「一人でいるのは、いやだ……だから、一緒に行く……」
 兄さんと、とキラはさらに言葉を重ねる。それだけではなく、さらにきつくラウの服を握りしめてきた。
「だが、厄介な状況かもしれないよ?」
 ストレスがたまるだけかもしれない。だから、君は……とラウは付け加える。同時に、間違いなく、今外で戦っているのはカナードだろうと確信をした。そうでなければ、自分を呼び出すはずはない。
 だからこそ、キラには見せたくないのだ。
「……でも……兄さんと一緒がいい……」
 ここに一人いるのはいやだ、と繰り返す。
「側にいてくれるって、言っていたでしょ?」
 さらにこう言われては、どう反論すべきか悩む。
「キラさん」
 彼も何かを感じていたのか。そっとシンが口を挟んでくる。
「俺じゃ役者不足かもしれませんけど……でも、ここにいますから……」
 だから、今回は我慢してください。彼はそういいながらキラの顔をのぞき込む。
「シン君……」
 その言葉に、キラは不思議そうな表情を浮かべた。
「ラウさんのことは心配いらないと思う……レイが付いていくから」
 彼が責任を持つから、と続けながら、シンはレイへと視線を向ける。
「もちろんです」
 即座に、レイはこう言い返してきた。
「だから、キラさんはここで待っていてください」
 さらに彼はこう、言葉を重ねる。
「キラ。彼等もこう言っているからね」
 だから、待っていなさい。そうラウは笑う。
「帰ってくるときに、ホットミルクを作ってきてあげよう」
 その位のワガママは構わないだろう、と心の中で呟く。認められなくても認めさせてみせる、とも付け加えた。
「……兄さん……」
「いいこだね、キラ」
 お願いだから、と付け加えると、キラは小さく頷いてみせる。その髪を、ラウは優しく撫でてやった。