ムウとカナードが帰ってきたのは、日付が変わってから、さらに数時間経ってからのことだった。
「キラは?」
 室内を見回しながら、ムウがこう問いかけてくる。
「起きているはずがなかろう。あの子は今日も学校がある」
 それとも、そうさせられないくらい厄介な状況なのか? とラウは逆に聞き返した。
「いや……眠っていてくれていた方がありがたい」
 そうすれば、話を聞かれる可能性は少なくなるからな、とムウは口にする。その事実に、ラウは思わず眉を寄せた。
 それは、別の意味で厄介な状況だと言える。
 だが、とすぐに思い直した。
「……あの子が関わらないのであれば、とりあえず構わないか」
 それでも、と思いながら、ラウはカナードへと視線を向ける。
「すまないが、キラが起きてこないか、そこで見張っていてくれるかね?」
 あの子には聞かせたくない話なのだろう? とそう続けた。それに、カナードは静かに頷いてみせる。
「起きてこない、とは思うのだがね」
 だが、万が一の可能性がある。キラは、夜中に魘されて起きる事があるのだ。
「わかっています」
 当然、その事実に気付いているのだろう。カナードは即座に頷いてみせる。
「……キラも……覚えていないのはいいことなのかどうか、微妙なところだな」
 完全に忘れているならばいい。だが、キラの場合、記憶を深層心理下に押し込めているだけなのではないか。だから、それが壁を破ろうとして《夢》としてあの子を苦しめているのかもしれない。
 そう、ムウも口にする。
「だが……今は、見守るしかできない、か……」
 自分たちは専門家ではないから、下手なことは出来ないし……と彼は続けた。
「そうですね。とりあえず、ジャンク屋ギルドを通じてマルキオ様には連絡を取っておきますが……」
 今はそうっとしておくしかないだろう。ラウもこう言って頷き返す。
「それで?」
 ともかく、話を元に戻さなければいけない。そう考えて、口を開く。
「あぁ、そうだったな」
 優先度から言えば、そちらの方が高いか。ムウは即座に頷いてみせる。
「あいつの居場所がわかったぞ」
「本当ですか?」
 今まで、手かがりを掴むことが出来なかった最後の一人がようやく見つかったというのか。
 しかし、とラウは思う。
 自分がどれだけ手を尽くしても見つけられなかったのはどうしてなのか。
「しかし、どこに?」
「プラント、だ」
 ラウの問いかけにムウがこう言い返してくる。
「そんなはずは……」
 あの地のデーターは全て調べた。しかし、それらしい子供はいなかったはず。
 それとも、とラウは眉を寄せる。
 自分たちがキラを隠しているように、誰かがあの子を隠していると言うことか。
「お前が考えているとおりだ」
 ラウの表情から何を考えているのか察したのだろう。ムウがこう言ってくる。
「厄介な奴が、あれを手元に置いている」
 もっとも、それだからこそ、あいつは安全かもしれないが。一見、逆に思えるような言葉でも、それが真実なのだろうとラウもわかっている。
「だから、とりあえず、相手の顔だけでも見てこようか、と思ってさ」
 こう言って、ムウは笑った。
「だが、それならば私の方が適任ではないのか?」
 いくらムウが有能だとはいえ、彼はナチュラルなのだ。プラントで自由に動けるとは思えない。
 それとも、IDを改ざんして乗り込むつもりなのか。
「いや。お前はキラの側を離れるな」
 何があるかわからない。だから、すぐに対処が取れる人間がキラの側にいた方がいい。そうムウは主張をする。
「それに、俺だとあいつの負担を増やすだけのような気がするし、な」
 生活能力が皆無とは言わないが、彼の場合、細かいところが出来ないことがある。だから、その判断は正しいだろう。
 だが、とラウは眉を寄せる。
「大丈夫だって。劾達が協力してくれることになっている。それに、実際に動くのはカナードだからな」
 だから、大丈夫だ。
 こう付け加えられては納得しないわけにはいかない。
「わかった。ただし、キラへの説明は自分たちでしてくれ」
 自分はしないからな、と釘を刺しておく。
「お、おい!」
「私は、何も知らなかったことにする」
 慌てる彼を尻目にラウはきっぱりと言い切った。