外の様子はわからない。
 確認したくても、レイとシンが一緒にいる以上、不可能だと言っていいだろう。
 しかたがないから――というわけではないが――ラウはキラを抱きしめていた。
「……兄さん……」
「大丈夫だ」
 そういいながら、ラウはキラの耳を自分の胸へと押しつける。
「私がここにいるだろう?」
 おそらく、彼女の耳には自分の心臓の音がしっかりと伝わっているのではないか。それが少しでも彼女を安心させてくれればいいと思う。
「……うん……わかってる……」
 でも、とキラは続ける。
「絶対、カナード兄さんが暴走しているような気がする」
 小声で囁かれた言葉を、ラウは否定できない。
「そちらも心配いらない」
 あちらにはムウがいる。そしてホムラ達も……と彼は自分に言い聞かせるように言葉を口にしていく。だから、きっとカナードを止めてくれるだろう、とも。
「……そうだといいね……」
 しかし、キラは今ひとつ納得できないようだ。
「キラ?」
「ホムラ様達だけならば止めてくれるだろうけど……ギナ様が来てるんでしょ?」
 それが一番怖い、と付け加えるように告げる。
「……そちらか……」
 確かに、あの二人が共闘したらムウでは止められないだろう。
 普段ならば一笑に伏すような状況も、キラが捕らわれているとなれば話は別だ。
「確かに、否定できないね」
 何よりも、とラウは心の中で呟く。
 彼等とカナードが開発していた《あれ》の存在がある。
 それを使っている可能せいも否定できない。
 だが、とラウはこっそりとため息をつく。それをキラに知らせるわけにはいかない。あれの存在はキラ達が研究していた存在と重なる。それを戦闘に使われていると知ったらショックを受けるのは目に見えていた。
 同時に、後悔の念を抱いてしまうだろう。
 自分たちがそういう研究を始めたから、彼等はそれを戦闘の道具にしようとしたのではないか。そう考えてしまうのがキラだ。
「だが、その方が安心かもしれないよ?」
 少なくとも、ギナがフォローしてくれるだろう。
 そうでなければ、ミナ達が動くか、だ。
「カナードが一人で動くよりはよっぽどましだ」
 違うかね? と問いかければ、キラは何かを考え込むかのように首をかしげる。
「そう、かもしれない」
 確かに、カナードを一人で戦場に出すよりはましだろう。その結論に達したのか。こう言い返してくる。
「そうだよ」
 キラが悲しむから。その理由で、ギナもカナードを見捨てるはずがない。
 問題は、その後こと事だろうが……と心の中で付け加えた。
 間違いなく、それを理由にキラを構い倒そうとするはずだ。それだけならばいいが、アメノミハシラに連れて行こうとするかもしれない。
 前者はともかく、後者は条件さえ整えばこちらとしてはありがたい事だろう。少なくとも、世界の情勢が落ち着くまでキラの安全を保証できるのではないか。
 もっとも、それを本人が大人しく受け入れてくれるかどうか、はまた別問題だろうが。
「だからね。君はとりあえず体力を温存することを優先しなさい」
 カナード達が動いているのであれば必ず助けに来るはず。
 その時に動けなければ、彼等の足手まといになるのではないか。
 それでは不本意だろう? とラウは言葉を重ねる。
「……はい」
 そういうときには、自分は彼等の迷惑にならないようにするのが役目だ。そう認識しているのか。キラは小さく頷いてみせる。
「いいこだね」
 なら、ベッドに横になるかな? とラウは問いかけた。そうすれば、きっと、目が覚めるときには戦闘だけは終わっているだろう、とも。
「……兄さんは?」
「もちろん、君の側にいるよ」
 心配しなくていい……と付け加えれば、キラはとりあえず頷いてくれた。
「キラがねるまで、手を握っていてあげようか?」
 さらにこう問いかければ、純玲の瞳が真っ直ぐにラウを見上げてくる。
「いいの?」
「もちろんだよ」
 微笑みながらそう告げれば、キラはほっとしたような表情を作った。
「大丈夫。私は必ず君の側にいるよ」
 だから、安心しなさい。その言葉にキラは安心したように体から力を抜いた。

 しかし、ラウはその約束を予想外の要因で破らざるを得なくなってしまった。