何か、ものすごくまずい状況を作り出してしまったような気がする。 ムウは目の前の光景を見ながら背中を冷たいものが伝い落ちていく。 「……作戦としては、間違ってないんだろうがな……」 その隣で、ロンド・ミナも複雑な表情を作っている。 「あの二人をセットで出撃させたのは、まずかったかもしれんな」 アクセルになることはあっても、ブレーキにはならないと彼女はそのままため息をついた。 「だからといって、あの二人を出撃させないわけにはいかなかったですからね」 自分ではあれを扱えないからな、とムウは悔しげに呟く。 ロンド・ギナが扱えるという事は、ロンド・ミナも操縦できるだろう。 カナードが作ったOSにはラウも関わっているらしい。と言うことは、彼もあれについては熟知していると言うことだ。だから、間違いなくラウも扱えるはず。 そうなれば、キラを守るべき存在の中であれを扱えないのは自分だけ、と言うことになる。 「人種の違いがある以上、しかたがないとはいえ……」 やはり悔しい。思わずこうも呟いてしまった。 「心配するな。いずれナチュラルも扱えるようなOSが出来る」 それをしっかりと聞きつけたのだろう。ロンド・ミナが笑いながらこう言ってきた。 「ミナ?」 「補助AIを搭載すればいいだけだ。もっとも、それに流用するデーターはあれらからもらわなければいけないだろうがな」 と言うことで、実践データーを貯めて貰おう。そう彼女は付け加える。 「もっとも、一番よいのは、あれらを使わなくてすむ世界だが……」 現状では難しい。 その事実はムウもわかっている。 自分たちの小さな世界すら、他人によってあっさりと壊されてしまうのだ。 だから、相手に自分たちへの攻撃をためらわせるための《力》を手に入れたい。 そう考えて、あれらを開発していたのだろうが……とラウは少しだけ眉根を寄せた。 「あそこまで威力があるとは、な」 これで、カトーの研究は軍事的にも十二分に利用できると判断されたはず。だから、彼はそう簡単に殺されないはずだ。 しかし、彼からシステムの開発を担ってきたのがキラだと伝わったら、あの子は間違いなく狙われる。 「……本当、厄介だよな」 パワーバランスというのは……とムウは付け加えた。 「否定は出来ぬな」 だからこそ、自分たち首長家がしっかりとオーブの理念を体現しなければいけない。しかし、それを出来ない存在もいるから難しいのだ、とロンド・ミナも眉根を寄せる。 「だが、それでも力を求めてしまう我々は……おろかなのかもしれん」 それでも、守りたいものがあるのだからしかたがないのだろうか。その答えを、ムウもロンド・ミナも持っていなかった。 その光景は、デュランダルも目にしていた。 「まさか……既に、あれを実戦可能なレベルまで完成させている者達がいたとは、ね」 だから、世界は侮れないのだ……と彼は心の中で呟く。 「……あれは、どこの者達でしょうか」 呆然とした声のまま、隣にいた青年が問いかけてきた。 「さて、ね。国籍信号は出していないのだろう?」 「はい」 デュランダルの確認の言葉に、即座に言葉が返される。 「だろうね」 あのようなものを開発できた国は、即座に他の国から狙われるだろう。でなければ、糾弾されるか、だ。 同時に、あれを手に入れようと蠢き出すに決まっている。 「欲しい、な」 プラントの技術力であれば、あれをさらに強力なものへと進化させることが出来るのだろう。そうなれば、さらに自分たちの立場を強くすることが出来るはずだ。 「……彼等なら、何かを知っているのかもしれないね」 言葉とともに脳内に浮かんだのは保護した二人の顔だ。 「やはり……何が何でもプラントに来て頂かなければいけないか」 「議長!」 彼の言葉に、艦長であるタリアが非難の声を上げる。 「二人がその気になってくれれば構わないのだろう?」 あるいは、キラの方だけか。そうすれば、いやでもラウは付いてくるはず。 「どうやら、あの子達はキラ嬢が好きなようだからね。保護者としては、彼等の恋が実ってくれればよいと思うのだよ」 頑張ってアタックして貰おうか……とデュランダルは付け加える。 「……恋愛は、確かに自由ですが……」 「婚姻統制のこと、かね?」 確かに、プラントにとっては重要な問題だろう。しかし、とデュランダルは視線を彼女に向けた。 「キラ嬢は第一世代だ。それほど難しく考えなくても大丈夫だろう」 第二世代同士よりも次世代は得られやすいだろうね、とそうも続ける。 「とりあえず、それに関しては私たちがどうこう言ってもしかたがないことだ。それよりも、これのデーターをとれるだけとっておくように」 この指示に、ブリッジクルー達はすぐに行動を開始した。 |