それでも、しばらくは穏やかな時間を過ごしていた。
 船内とはいえ、ここは開放感を感じられるからだろうか。そんなことを考えていたときだ。
「シン! それに、キラさん!!」
 半ば叫ぶように二人に呼びかけながら、展望室にレイが飛び込んでくる。
 ここに自分の名前がないのは、彼なりに何か引っかかるものがあるからだろうか。それとも、デュランダルの指示なのか。
 だが、それを揶揄できる状況ではなさそうだ、とラウは判断をする。
「大至急、部屋に!」
 それを証明するかのように、彼はこう叫ぶ。
「レイ?」
 どうしたんだよ、とシンが表情を強ばらせる。
「……俺もよくわからないが……進行方向で戦闘が行われていると……」
 今、確認中らしい……とレイは言い返してきた。
「ただ、ここでは万が一のときに危険だから……できれば部屋に」
 居住区は最後まで安全なように作られている。だから、ここよりはましだろう。彼はこう続ける。
「……戦闘、って……」
 いったい、誰と誰が……と呟いているキラの顔色は悪い。おそらく、最悪の可能性を考えているのだろう。それに関しては、自分の完全に否定しきれない。
「さて、ね」
 しかし、とラウは心の中で呟く。はたして、ザフト側が自分たちにそれに関するデーターを渡してくれるだろうか。
 それに関しては、自力で手に入れればいいだけか。すぐにそう思い直す。
 それよりも、だ。
「しかし、彼等も戦闘のプロだからね。大丈夫だろう」
 だから、君は何も心配しなくていいよ……と口にしながら、キラの背中を安心させるようにそっと叩く。
「ここが家なら、ホットミルクを作ってあげるところなのだがね」
 それを飲んで眠れば、少しは不安を忘れることが出来るだろに……とラウはため息をついた。
「……ラウ、兄さん……」
 そんな彼の首にキラはしっかりと腕を回してくる。そのまま額を肩に押しつけてきた。
「大丈夫だ。私が側にいるだろう?」
 だから、何も心配はいらない。必ず、ヘリオポリスのみんなともまた会えるようにしてあげる……とラウはそんなキラの背中を撫でながら言葉を重ねた。
「……ホットミルク、だったら……俺が作ってきましょうか?」
 おずおずとシンが声をかけてくる。
「シン?」
「だって、キラさんがこんなに恐がっているんだし……その位もダメなのか?」
 諫めようとして呼びかけたレイに向かってシンがこう言い返した。
「……ダメではないが……邪魔になるぞ」
 レイの言葉は、軍人であれば当然のことだろう。と言うことは、彼は正式な軍人ではないが、それに近い存在だと言うことか。
 逆に、シンはその手の情報を与えられていないように思える。
 その差は、一体どこにあるのだろうか。
 二人の保護者がデュランダルであることは間違いないはず。と言うことは、彼の思惑があるのだろうか。
 あるいは……とラウは微かに目をすがめる。
 彼等がデュランダルの元へ引き取られたときの状況が関係しているのかもしれない。
「でも……」
 そんなラウの前で二人はなおも口論を重ねていた。
「……兄さん……」
 僕、大丈夫だから……と顔も上げずにキラが言ってくる。
「わかっているよ、キラ」
 小さなため息とともにラウは頷いて見せた。
「二人とも」
 そのまま視線を二人へと向ける。
「とりあえず、先に部屋に戻ってくれた方がキラのためには良さそうだよ」
 それから判断をしても遅くはないだろう……と彼は続けた。
「ですが……」
 シンはどこか不満そうに声を上げる。
「君の気持ちはありがたいのだが……まずはキラを休ませたいのだよ」
 だから、今は……と言えば、シンもとりあえず納得したらしい。
「わかりました」
 そういうことなら、キラを優先しましょう……と彼は頷く。そういう素直な態度は好ましいな、とラウは思う。
「すまないね」
 言葉とともに、今度はレイへと視線を向けた。
「手間をとらせてしまったかな?」
 今度は彼に向かって問いかける。
「いえ。大丈夫です」
 実際に攻撃を加えられているわけではないから、と彼はいつものきまじめな表情で言葉を返してきた。
「そうか」
 では、移動しようか……と告げれば、彼は頷いてみせる。
 しかし、やはりどこか敵視されているような気がしてならない。それはどうしてなのか。
 だが、それもデュランダルが関わっているのだろう……とそう判断をする。
 とりあえず、キラに被害が及ばなければいいのか。そう考えて、移動を開始した。