目の前に見えるのは宇宙空間だけで、ヘリオポリスの光は見つけられない。おそらく、自分たちに現在の位置を推測させないためだろう、とラウは判断をした。 それでも、部屋の中から出られたから、だろうか。キラはのびのびとした表情を見せている。 「何か飲みますか?」 そんなキラの様子に、シンもほっとしたような表情を作っていた。 「でも……ここにはないよね?」 ディスペンサーは、とキラは聞き返している。 「大丈夫です。レイが来るはずですから、持ってきて貰います」 それに、シンは微笑みと共に言葉を返した。 「レイ君?」 「はい。あいつだけ仲間はずれにすれば後でむくれますから」 本当は一緒に来るはずだった。しかし、急にデュランダルに呼び出されてしまったので、自分だけ先に来たのだ。シンはそう説明をする。 「そうなんだ」 やっぱり、セットなんだね……とキラは笑いながら言葉を返した。 「違います!」 即座にシンが口を開く。 「俺たちも、ここでは異分子ですから……だから、あまりうろうろしない方がいいのかなって思っただけです」 もっとも、そう考えているのは自分だけで、レイは違うような気はするが……と彼は続けた。 その認識は正しいのかもしれない。 だが、それはどうしてなのだろうか。 「そういえば……君はいつからあの男と共にいるのかな?」 知っておいた方がいいのではないか。そう考えてラウは問いかけの言葉を口にする。 「……いつからって……多分、五年くらい前、じゃないかと……」 はっきりとは覚えていないのだ、とシンは続けた。 「シン君?」 「何か、宇宙船の事故に遭遇したみたいで……ガキの頃の記憶がないんですよね。議長やレイと会ったのも、病院だったと言うことしか覚えてないし」 本当に病院だったのか、と聞かれれば、途端に自信がなくなってしまう。彼はそう言って笑った。 だが、それがどこか寂しげな笑みだったことは否定できない。 「それは、悪いことを聞いてしまったね」 申し訳ない、とラウは素直に謝罪の言葉を口にする。 「気にしないでください。俺自身、覚えてないことですから」 確かに、家族のことも覚えていないのは寂しい。でも、今の自分には親しくしてくれる人たちがいる。だから、十分だ……と言ってシンが笑った。 「シン君」 それに、キラが複雑な表情を作る。しかし、それはすぐに消えた。 「そうだよね」 代わりに優しい笑みが口元に浮かぶ。 「僕も、兄さん達がいてくれるからこうして笑っていられるもの」 それ以上を望んではいけないような気がする。そう付け加えられて、ラウは何と言えばいいのかわからない気持ちになった。 おそらく、この場にムウがいれば満面の笑みと共に「当然だろう」と言い返すだろうし、カナードであればにやりと笑って終わらせるかもしれない。 しかし、自分にはそれだけでは不十分だ。それでは、この気持ちをキラに伝えることが出来ない。 だから、と静かに足を進める。 「兄さん?」 どうしたの? とキラが見上げてきた。その体を、ラウは抱きしめる。 「兄さん」 「いや、あまりに嬉しくてね……何と言えばいいのかを考えていたのだが……」 言葉が見つからなかったのだ。だから、行動で示した方がよいのかと思って……といいながら、そのままキラの体を抱き上げた。そして、頬をすり寄せる。それは、キラが小さな頃、好んでいた仕草だと言っていい。 「やだ、兄さん! くすぐったい」 くすくすと笑いながら、キラが声を上げる。 「流石に重くなったかな?」 もっとも、ここは低重力だからよくわからないが……と付け加えれば、キラの頬が少しだけふくらむ。 「兄さん……」 女の子にそのセリフは禁句! と彼女は言葉を口にする。 「だが、君は妹だからね」 構わないのだ、とラウは言い返す。 「……と言うことだからね。過去よりも現在を優先すべきだと思うよ」 キラの体を抱え直すと、ラウはシンへと視線を向ける。 「……それって……」 「可能性の一つ、と言うことだね」 実力次第で、もう少しランクを上げてもいい。しかし、それだからと言って無条件で認められるとは思わないように、と釘を刺しておく。 「私が認めても他の者達がそうだとは限らないからね」 特に、カナードとキラの友人達は厳しいと思うが……とそう続ける。その瞬間、彼が嫌そうな表情を浮かべたのは、あの強烈すぎるキラの友人のことを思い出したからだろうか。 「まぁ、がんばりたまえ」 ラウは意味ありげな笑みと共にこう告げる。この程度で諦めるならば、最初から見込みはないと言うことだ。ただでさえ、彼はデュランダルの関係者ということでスタートラインが遠いのだし、と心の中で付け加える。 「もちろんです!」 絶対に認めさせてみせる、とシンはラウをにらむようにしながら口にした。 そういう性格は嫌いではない。 だから、ラウは年長者の余裕を見せつけるように微笑んで見せた。 |