ムウの元にその報告が届けられたのは、きっと、ホムラとトダカが気を回してくれたからだろう。 それはありがたい。自分たちは蚊帳の外に置かれてもしかたがない立場なのだ。 「……内容はともかくな……」 モニターに映し出された内容を見て、ムウは思いきり顔をしかめる。 「さて……どうするか……」 自分たちは軍人ではないからこのまま待機していなくても構わない。しかし、迂闊な行動をとってはオーブの立場を悪くしかねないのだ。 「要するに、あいつらの動きをオーブ軍が制止できる理由があればいいわけだな」 それも、誰もが納得をする形で、だ。 「こう言うときにラウがいないのはきついか」 彼であれば、誰もが納得する――そのくせえげつない――作戦を考えてくれただろう、とため息をつく。 「俺は……どっちかというと自分が動く方だからな」 性格的なものだから、今更変えるつもりはないし……とムウは笑う。 「いっそのこと、デブリでもぶつけてやろうか」 でなければ、進行方向に向かって、デブリが流れてくるような状況を作るか、だ。 「……出来ないわけではないな……」 やろうと思えば十分に可能だ。 何よりも……とムウは唇の端を持ち上げる。 ここは学園都市だ。色々な実験が日常茶飯事で行われている。その中には、宇宙空間でなければできないそれもあるだろう。 だから、たまたまそんな実験が失敗をして、進行方向へ向かって何かが吹っ飛んでいったとしてもあちらには文句を言えないはずだ。 そして、その回収の依頼がジャンク屋に来ることも普通だろう。 「シナリオは、そんなところか」 もちろん、即席で作ったシナリオだから、あらがあると言えばあらがある。だが、混乱状況にある現在のカレッジであれば、それも納得される可能性の方が高いだろう。 「……カナードにも協力させるか」 と言うよりも、させないとふてくされるだろうな……とムウはそう呟く。 「それと……ギルドか」 こちらのカレッジについては、ホムラから連絡をして貰えばいいだろう。 「……いっそ、サハクの双子を先に巻き込むか……」 どの方法が一番いいんだろうな……とぶつぶつと呟く。だが、とりあえずトダカには声をかけておかないとまずいだろう、と言う結論に達する。 「反対されるかもしれないが……だからといって、このまま戦闘状態に入られるわけにはいかないんだよ」 そんなことになれば、キラとラウは自分たちの手の届かない場所に行ってしまいかねない。その前に、可能性のある全ての艦艇をこちらの手に収めてしまいたい。 「……キラがいるなら、全ての艦にウィルスを流して貰うところなんだがな」 頭脳派の二人がいないと、これほど厄介な状況になるとは想像もしていなかった。そう呟きながら、通信機に手を伸ばす。 「まずは大人しく段階を踏んでいくか……」 そして、その言葉とともにスイッチを入れた。 目の前で、作業が急ピッチに進んでいく。 「……ギナ……」 喜々としてシステムを確認している彼にミナは小さなため息とともに声をかけた。 「わかっていると思うが……」 「もちろんだ。キラを傷つけるわけにはいかないからな」 だからこそ、これを使うんだろう? と彼は笑い返してくる。 その言葉に嘘はないだろう。 彼もまた、キラを可愛がっている。性格がこれでなければ、あの三人を説得してキラとギナを婚約させられたのに、と心の中で呟く。 しかし、ギナの性格は双子の片割れである自分の目から見てもかなり歪んでいるとしか言いようがない。 特に、こうして兵器の開発や実戦に出ているときにはそれが如実に表れてしまう。 「そうしてくれ。でないと、あの子に恐がられるぞ」 キラの性格を考えれば、嫌われることはないだろうが……と釘を刺すようにミナは口にした。 「……うっ……」 その瞬間、ギナが頬を引きつらせる。 「あの子は元々、誰かが誰かを傷つけると言うことを嫌っているからな」 あの三人が、あの子をそう育てたのだ。そして、それは間違っていないとミナは考えている。 そして、キラは自分のその考えを誰かに押しつけてはいけないこともわかっているのだ。 だから、ムウやカナードの行動を止めるようなことはしない。自分たちに対してもそれは同じだ。しかし、自分の研究成果が戦いに関わっていると知ればどうだろうか。 「それに……それのシステムはあの子の開発していたものの流用だろう?」 ばれたら、二度と口をきいてもらえないだろうな。こう言ったのは念のためだ。 「……わかっている……」 動きを止めるだけで我慢しておく、とギナは口にした。 「もっとも……こちらの制止に耳を貸さないときには、多少の被害は妥協してもらうぞ」 キラにばれなければいいんだろう、キラに! と半ば開き直った口調で彼はさらに言葉を重ねる。 「……そうしてくれ」 ばれるとわかっているくせに、と心の中でため息をつきながらミナは言い返す。 「二人を取り戻したら、ラウと口裏を合わせておかないといけないだろうな」 キラを傷つけないように、とそう呟きながら、彼女はきびすを返した。 |