端末が誰かの来訪を伝えてくる。 「……シン君とレイ君かな?」 こう言いながら、キラが腰を浮かせようとした。その体をラウは抱きしめることで押しとどめる。 「兄さん?」 「君は座っていなさい」 言葉とともに彼はさっさと立ち上がった。 「……過保護……」 ぼそっとキラはこう呟く。 「当然のことだよ」 艦内には、決まった相手のいない男ばかりがいるからね……と彼は意味ありげな笑みと共に言い返してくる。 「ムウのような存在がごろごろしていると思えばいい」 この一言で、彼が何を心配しているのかわかった。でも、とキラは小さなため息をつく。 「その説明に、ムウ兄さんを使うことはなかったんじゃない?」 思わずこう呟いてしまった。 「構わないよ。あの男にも少し自覚させないとね」 自分が諫めても気にもとめないが、キラが相手ならば流石に少しは反省するだろう。そういって、ラウは笑い声を漏らした。その態度から、こんなことは行っても、彼がムウを嫌っていないと言うことがしっかりと伝わってくる。 いや、信頼しているからこそこんな風に言えるのだろうか。 だとするならば、少しうらやましいと思う。自分には、そういう風に言える相手はいないのだ。 それもこれも、ひょっとしたら彼等が過保護だからかもしれない。 こう考えてしまうのは、きっと、八つ当たりをしたいからなのだろう。 やはり――いくらラウが一緒だから、とはいえ――一部屋に閉じ込められたまま外出の自由がないというのは予想以上に精神的な負担になっているようだ。 ラウと一緒でも構わないから、もう少し好きな時間に部屋から出られればここまでストレスをためる事はなかったのではないだろうか。そんなことすら考えてしまう。 「誰かね?」 そんなキラの前で、ラウが外にいるものに誰何の声をかけている。 『シンです』 返ってきたのは、顔見知りの彼のものだ。 『許可を貰ってきたので、展望室の方にいきませんか……と言うお誘いに来たのですが……』 迷惑だっただろうか、と彼は問いかけてくる。 「いや、そういうわけではないが……」 こう言いながら、ラウは視線をキラへと向けていた。おそらくこの兄は彼等がそんなことを言って来るとは思っていなかったのだろう。 「どうするかね?」 そのままこう問いかけてくる。 「兄さんと一緒でいいなら、行きたい」 シンと二人でも、とも思ったが、それではラウが心配をするだろう。それに、自分も少し心細い。だから、と思ってキラはこう告げた。 だが、それはラウの希望と一致していたらしい。彼は満足そうに微笑むと頷いてみせる。 そのまま視線を戻すと口を開いた。 「私も一緒でいいのであれば行く、とキラは言っているが……構わないのかね?」 二人だけというのは認められないよ、とラウはからかうような口調で続ける。 それに、シンはすぐに言葉を返してこない。 「どうかしたのかな?」 理由がわからなくて、キラは首をかしげる。 「どうしたのだろうね」 小さな笑いと共にラウが言葉を返してきた。 「まぁ、その返答次第で、彼の評価を変えなければいけないかな?」 彼はさらに言葉を重ねる。 「兄さん?」 それはどういう意味なのか、とキラは首をかしげた。それに、ラウは意味ありげな笑みを浮かべるだけだ。 『わかりました。ご一緒に』 同時に、シンの声が端末越しに響いてくる。 「どうやら、彼は合格、と言っていいようだね」 これで断るようであれば、あれこれ邪魔してやろうと思ったのに……と彼は続けた。 「……そういう意味だったの……」 やっぱり過保護だ、とキラは心の中で呟く。 「ここがヘリオポリスであればそこまではしないけれどもね」 残念ながら、ここはザフトの戦艦の中だ。だから……と言われては納得しないわけにはいかない。 「とりあえず、彼を招き入れるからね」 それを確認したからか。ラウはこう言ってくる。それに、キラは小さく頷いて見せた。 ラウがロックを外すと同時に、シンが転がるようにして入ってくる。しかし、その隣に見慣れたもう一人の姿はない。 「レイ君は?」 てっきり一緒だと思ったのに、とキラは素直に問いかける。 「……俺たちはセットって言うわけじゃないんですけど……」 憮然とした表情でシンがこう言い返してきた。その表情はとても子供っぽい。だから、悪いと思ったがついつい笑いを漏らしてしまった。 |