流石のムウも、目の前のデーターには一瞬言葉を失ったようだ。
「……どうします?」
 ともかく、とカナードは彼に問いかける。
『どうするも……ホムラ様に連絡、だな』
 自分たちではオーブ軍を動かすことは難しい。出来たとしても秘密裏にと言うのは不可能だ。
 しかし、彼であれば可能だろう。
 その判断に、カナードも頷いてみせる。
『それに……そっちは俺たちの役目じゃないからな、言葉は悪いが』
 自分たちが今優先すべきなのはキラとラウを無事に保護することなのだ。
 もし、二人いっぺんには無理だと言うのであれば、その時にはキラだけでも取り戻したい。
 ラウの方は、放っておいても必ず無事に戻ってくることはわかっている。だが、あの子は戦うことを知らないのだ。
 いや、自分たちが教えなかった……と言った方が正しいのか。
 キラには自分の才能を別の方面へと伸ばして欲しかった。
 決して、あの子の存在は戦いのためにあるわけではないのだ。
 しかし、他の者達はそう思っていないに決まっている。いや、今でも隙あらば、あの子を戦いへと誘おうとしているに決まっているのだ。
 だが、それは《キラ》の心を壊すことと同意語でもある。
「……そんなこと、認められるか……」
 ぼそっと思わずこう呟いてしまう。
『カナード?』
 どうかしたのか、とムウが問いかけてきた。
「何でもありません。ちょっと不快な連想をしてむかついただけです」
 それに、カナードはこう言い返す。
『そうか……』
 何やら不安そうな表情を作っていたのはどうしてなのか。確認しなくてもわかってしまう。
『カナード?』
「……兄さんが戻ってくるまで、動きませんよ」
 わかっています、とカナードは言い返す。
「もっとも、情報収集だけはさせて貰いますが」
 情報は少しでも多い方がいいだろう。そう付け加えれば、彼は小さな笑いを漏らした。
『好きにしろ』
 それが許可の言葉だとわかっている。
「大人しく、好きにしていますよ」
 だから、笑いながらこう言い返した。

「やはりばれたかね」
 レイの報告を聞いてデュランダルは小さな笑いを漏らす。その表情からは怒りや何かと言ったものは感じられない。
「……予想、していたのですか?」
 むしろ喜んでいるような気がして、思わずこう問いかけてしまった。
「もちろんだよ」
 そうでなければ面白くない。そう彼は続ける。
「しかし、返されてすぐとは……キラ嬢の実力は私の想像以上だね」
 もっとも、そうでなければ君達にはふさわしくはないのかもしれない。そういって彼は笑った。
「ギル!」
 彼女が気にかかっていることはばれているとは思っていたが、だからといってこれはないだろう。
「そのせいで、俺たちが嫌われるとは思っていなかったんですか?」
 だから、と言うわけではないが、レイは反射的にこう問いかけてしまった。
「その程度で嫌われてしまうのであれば、それまでの関係だった……と言うことではないのかな?」
 あるいは、君達の魅力もその程度だったという事だろう。そう告げる彼は少しも悪いと思っていないようだ。
「ギル!」
 経験を重ねている彼にとってはそうなのかもしれない。
 だが、自分たちにしてみればそんなことを言える余裕なんてないのだ。実際、シンは、いったいどうしたらいいのかと悩んで、頭を抱えている。
「大丈夫だよ。おそらく、二人にはそれが私の仕業だとわかっているだろうからね」
 少なくとも、ラウには……とデュランダルは楽しげに続けた。
「君達に文句を言ったのは、八つ当たりだろうし」
 ともかく、と彼は言葉を重ねる。
「今しばらく、お二人にはこの艦に滞在して頂かなければいけないのだよ。その間に、君達がキラ嬢に好印象を与えればいいだけではないかな?」
 機会はいくらでも作れるだろう? だから、頑張りなさい……と言われても、すぐには頷けない。
 だが、そうする以外に現状を打破する方法がないこともわかっている。
「……はい……」
 彼とラウの諍いに、自分たちを巻き込まないで欲しい。そう思いながら、レイはそれでも渋々と頷いて見せた。