とりあえず、こちらに持ち込んだ荷物を返してもらえた。それは幸いだったといえるのだろうか。
 こんなことを考えながら、キラは手早く中身を確認する。
 自作のスキャンプログラムを走らせていれば、即座に手を加えられた痕跡が発見できた。その内容を確認すれば、どうやら、トロイの木馬系のウィルスらしい。
「……むぅ……」
 その事実に、思わず不満そうな声を漏らしてしまった。
「どうした?」
 それを聞きつけたのだろう。ラウがキラの肩からモニターをのぞき込むようにしながら問いかけてくる。
「ウィルスが入ってた」
 これに、とキラは低い声で呟く。
「削除したら、まずいよね?」
 ばれるから、と彼を振り仰ぎながら唇だけで問いかける。
「そのままにしておきなさい。どのみち、そちらには重要なファイルは入っていないのだろう?」
 即座にラウがこう言い返してきた。
「そうだね」
 確かに、こちらにあるのはカレッジで使っている無難なソフトとそれようのデーターだけだ。ハッキングや何かのためのソフトはこっそり隠し持っているディスクに入っていた。
 そして、そちらのディスクには予備のOSも入っている。
 いざとなれば、そちらから立ち上げればいいだけだろう。
 もっとも、その前にそれがばれないようなプログラムを作っておかなければいけないだろうが。
「……でも、出来るかな……」
 キラは自分に問いかけるようにこう呟く。
「裏コードでやれば、可能かな?」
 要するに、普通に見ていけば害のないプログラムのように偽装しているものの、裏では別の作業を行うようにすればいいだけだ。
 そういうプログラムであれば作ることは難しくない。
 あるいは、手元のプログラムを偽装するようにすることか。
「君のプログラムのソースを理解するのは難しいからね」
 小さな笑いと共にラウがこう言ってくる。
「もっとも、それがどれだけ素晴らしいものか、私たちはよく知っているが」
 そう付け加えられてもあまり嬉しくない。
「僕にプログラミングを教えたのはラウ兄さんじゃないか」
 何のに、そういうことを言う? と言い返す。
「私たちにはわかっているから十分だと思っていたのだが……違うのかな?」
 それにラウは平然とこう言い返す。
「……まぁ、そうかもしれないけど……」
 でも、そんなに理解できないものなのだろうか、自分のプログラムは。キラはそう考えて首をかしげる。
 確かに、友人達は誰もすぐには理解してくれていない。でも、自分の作ったプログラムを信頼してくれている。それでいいかもしれないと思っていたが、実は違ったのではないか……と今更ながら考えてしまう。
「気にしなくていい。独創的なのが悪いわけではないからね」
 それをマイナスととらえずにプラスになるようにしていけばいいだけのことだ。
 言葉とともにラウはキラの肩に手を置いた。
「兄さん……」
「……ともかく、気をつけなさい……」
 耳元でこう囁いてくる。
「私の方も必要な機材は返ってきているからね」
 確認はしていないだろうが、そちらもキラものと同じようにウイルスが仕込まれているだろうね……とラウはため息をついた。
「もっとも、気付かれると思っていなかったのかもしれないが」
 あぁ、そうだ……と彼は小さな笑いを漏らす。
「今度、あの二人が来たら文句を言ってみるかね?」
 その程度ぐらいの八つ当たりは許されるだろうからね、と彼は付け加えた。
「……八つ当たり?」
「そう、八つ当たり」
 キラがする分には喜ぶかもしれないが、自分だといやがるだろうね……とラウはさらに笑みを深める。
「まぁ……それでも、私の八つ当たりは一番ましな方だろうがね」
 ムウやカナードはもちろん、サハクの双子あたりからのそれであれば、二人とも命の危機を覚えるかもしれない。それでなくても、フレイあたりであれば十分精神的な打撃を与えられるだろうが……と彼は続ける。
「……否定してあげたいけど、あげられない……」
 確かに、そう考えればラウが一番ましかもしれない。
「そういうことだね」
 まぁ、このままここに留め置かれていても、怖いことになりかねないがね……とラウは続ける。
「……ムウ兄さんとカナード兄さんが何かするって言うこと?」
「あるいは、オーブからの輸出品の価格が上がるとかね」
 サハクの双子ならやりかねない。そういわれて、キラは首をかしげた。
「ギナ様はともかく、ミナ様がそこまでするかな」
「君が関わっているとなれば、するだろうね」
 まぁ、それだけですめばいいだろうが。ため息とともにこう続ける彼に、キラは何と言い返せばいいのかわからない。
「……国交断絶だけは避けて欲しいな……」
 ともかく、とため息とともに言葉を口にするのが精一杯だった。