ムウにうまく乗せられたかもしれない。
 そう考えながらも、カナードはとりあえず地球軍のマザーにハッキングを仕掛けていた。こちらを優先したのは、キラにとってどちらがより危険度が高いかを考えてのことだ。
「あの子の方が得意なんだがな、こういう事は」
 まるで息をするかのように全てのトラップを無効化していく。そして、その奥のデーターを何でもなかったかのようにのぞき見ているのだ。
 その様子はまるでネットの中にある情報の方が進んでキラに自分を見せたがっているようだ、と言ったのは二番目の義兄だっただろうか。
 確かに、それは言い得て妙かもしれない。
 そう思ったのは、こうして自分もハッキングをするようになってからだ。
「……その才能を狙われたか?」
 キラを欲しがる理由は、それしか考えられない。
「それとも……あの子が《女》だからか?」
 コーディネイターは生まれる前から性別を決められる。
 そのせいだろうか。
 第一子に《男》を望むものが多い。
 そして、出産のつらさの成果、第二子を望む女性は少ないのだ――いや、たんに忙しくてその機会を逃しているだけかもしれないが――そのために、プラントでは人口比が偏っている。今はともかく、いずれ問題が起きるのではないか。
 そういえば、あいつらは争うようにキラの感心を買おうとしていたな……カナードは心の中で付け加えた。
「……嫌なことを思い出したぞ……」
 それだけならばまだしも、とんでもない行動に出てくれたバカがいたではないか。
 もし、あれが今、キラの側にいたらどうなるのだろうか。
「ラウ兄さんが側にいるから、心配はいらない……と思いたいが……」
 なまじ、連中の場合、親に権力があった。その中には軍に通じるものもあったはず。
「それでも、地球軍に拾われるよりはマシなんだよな」
 最後の一人がいる以上、連中をしっかりと蹴散らしてくれるだろう。
「そうか……フレイが誰かに似ていると思ったら、あいつか」
 その手段は違っても、キラに対する思いや何かはよく似ている。
「だから、ラウもあれがキラの側にいることを許したんだろうな」
 でなければ、ある意味、あれほど危険な存在はいない。
 ラウが認めていなければ、どのような手段を執ってでもキラの側から遠ざけていたのに。そう考えてしまう自分がいることも、カナードは否定はしない。
「……もし、地球軍の艦艇にキラがいたら……」
 自分はどうするのだろうか。
 あちらではキラもラウも人権を無視されてしまうだろう。
 いや、それだけならばいい。
 もし、あの二人の存在を知っている人間がいたら、即座に自分たちの手の届かないところに連れ去られてしまうかもしれない。そう。あのころのように、だ。
 何の力もないあのころですら、キラが側にいないことが辛かった。
 今は、戦う力も、キラを守る力もある。
 だから、連中があの二人に何かをしていたら、自分はためらいなく攻撃を加えるだろう。
 その結果、世界が戦火に包まれたとしても構わない。
「キラが、無事なら……な」
 こう考えてしまう自分がどこか壊れているのはわかっている。
 だが、キラがいるから、この程度ですんでいるのだ。
 義兄達二人もそれはわかっているはず。
「まぁ、あの二人も程度は違えども同じ穴の狢だしな」
 年齢と経験を重ねているから、常識的に振る舞えるだけだ。二人の本性を見慣れているカナードからすれば、ずいぶんと図太い猫を飼っているな、としか言いようがない。
 もっとも、キラはそれでころりと騙されているのは、可愛いと言うべきなのだろう。
「ともかく、ラウが動くのが先か……それとも、俺たちが二人の居場所を見つけるのが先か……」
 それによって、周囲の被害の度合いが変わってくるかもしれないな。こう呟いてカナードは笑う。
 もちろん、その間にも指は動いていた。
「これで、ラストか」
 最後のトラップを無事に外す。
 その奥には自分たちが求めている情報が取り放題の状況で置かれているはずだった。
 だが、その中には予想外のものも存在している。
「……これは……」
 その中には信じられない内容もあった。
「兄さんに、相談だな」
 自分だけでは判断が出来ない。そう考えて、カナードは即座にそれを保存する。
「……キラやラウ兄さんに関する情報はないようだな……」
 それとも、まだ報告されていないだけか。
 だが、それを待っていてこちらを無視することは出来ない。それほど厄介な内容なのだ。
「見なかったことにできればいいんだがな」
 小さなため息ととも自分が侵入した痕跡を消していく。ついでに、次に侵入するための仕掛けも施した。
「本当……嫌な連中だ」
 この呟きと共に、カナードは全ての作業を終える。代わりに今度はムウへ連絡を取るために通信機に手を伸ばした。